狐の王国

人は誰でも心に王国を持っている。

バラモン左翼とビジネスエリート右翼に分断された「ぼくたち」の物語

市民感覚としての白饅頭、知性主義の限界、経験の抹殺 という記事がすばらしかったので読んでもらいたいと思いつつ、これはピケティの言う「バラモン左翼とビジネスエリート右翼」の問題だなとつくづく思ったのでここに少しそのへんの話を書いておこうと思う。

バラモンというのはインドのカースト制度の頂点にいる司祭階級の人々のことだ。バラモン左翼というのはそういう「上位」にいる左翼のこと。古い人には「そんなバカな」と感じられるかもしれない。昔は左翼といったら資本家から労働者を守る人々であり、カーストの頂点にいることなんて考えられなかったからだ。

だが現実には給与や社会的地位の高い新興企業や学術機関に勤め、環境問題やジェンダー不平等など意識の高い問題に取り組むことを是とする「左派」はごまんといる。彼らは努力してそれなりの地位を獲得しただけあって、新自由主義的な感覚を持っている。「努力すれば自分たちのように豊かな生活ができるはず」と本気で信じ込んでいる。だから庶民にコストの高い生活を平気で求める。ヴィーガン食を進めたり、レジ袋を有料化したり、ごみの分別を押し付けたりだ。

一方ビジネスエリート右翼はというと、いわゆる全体主義的な右翼とビジネスエリートたちが手を組んだ状態だ。彼らは人権などバカらしいと考えてる。それより金儲けが大事であり、人身売買同然の低賃金長時間労働を平然と実行してくる。こちらもこちらで新自由主義的、どっちもネオリベなのである。

これは政治思想でもあるので、日本だとビジネスエリート右翼は自民党バラモン左翼は立憲民主党を思い浮かべるとだいたいあってるのではないかと思う。日本の自民党はあれで意外と多様なメンツを揃えててバラモン左翼的なこともやったりするのだけれども、立憲民主党がそれに反対することもないわけだ。

ちょっと前にそれぞれの代表的な人物を図示してみたので参考までに。

バラモン左翼とビジネスエリート右翼
バラモン左翼とビジネスエリート右翼

実のところ、ピケティのバラモン左翼とビジネスエリートに右翼ついて書かれた「資本とイデオロギー」はまだ日本語版がない。山形浩生Twitter などで翻訳作業を進めてることを明かしており、おそらく2021年中には刊行されるであろう。だが難航してるようである。

だがTRPG界隈では昔から有名な井上純一が、自身の経済漫画でバラモン左翼とビジネスエリート右翼をたいへんわかりやすく説明している。書籍のほか、note でも単品で買えるのでぜひ読んでみてもらいたい。

バラモン左翼でもビジネスエリート右翼の説明(「がんばってるのになぜ僕らは豊かになれないのか」より)
バラモン左翼でもビジネスエリート右翼の説明(「がんばってるのになぜ僕らは豊かになれないのか」より)

がんばってるのになぜ僕らは豊かになれないのか (角川書店単行本)

それって全部お金デスヨ!! 最終回:日本はこれからどうするイイデスカ?|井上純一|note

結局のところ、政治思想がバラモン左翼とビジネスエリート右翼のように先鋭化してしまった結果、大多数の市民は完全においていかれてしまっているのである。

雇用が失われてるし公務員は人手不足なのだから、公務員を増やして仕事をラクにすればいい。ごみの分別など公務員がやれば雇用も生まれる。安定した雇用と十分な賃金があれば、結婚して子供を産む人々も増えて少子化問題は解決に向かうだろう。そうすると彼らは家を建てるようになり、そこでもまた雇用が生まれていく。人口減少に歯止めがかかり、税収も上がっていく。

これは別に夢物語でもMMTでもなく、古典的なケインズ政策とかニューディール政策とか呼ばれてるものだ。実際に他国ではそうした経済政策をちゃんとやっている。それでも足りなくてバラモン左翼とビジネスエリート右翼で分断されているのだが……。

日本でアメリカほどにこの分断による問題が起きてないのは、元の経済規模がでかいからだ。人口は倍以上のアメリカにせまる世界第2位の経済超大国であった日本、30年に渡り落ちぶれ続けてきたがそれでもまだ世界第3位の経済大国なのである。30年も落ちぶれ続けてもまだこのへんにいられるということが奇跡であり、驚異なのであるが、まあそれもいつまでもつのか……。

いわゆるアベノミクス3本の矢というのは日本が20〜30年やってこれなかったまっとうな経済政策であり、支持が集まるのはたいへん理解できる話だった。だが金融緩和をやっただけで大規模財政出動はいっさいやってない。それどころか不景気なのに増税というバカなことまでしでかした。構造改革はデジタル庁の動きによってようやくなんとか動き始めたという程度である。だがそれでもプランが示せる程度には正気を保っているはずなのだ。

つまるところ、バラモン左翼でもビジネスエリート右翼でもない右翼や左翼は死んではいない。声の大きな少数の支持者たちが、バラモン左翼とビジネスエリート右翼を支え、力をもたせているのである。

政治家たちは悪人ではない。みな市民の声を国政に反映したいという志をもった人々だ。だからこそ、我々の声をどうやって届けるかが鍵となる。

だから声を上げていこう。世論を作っていこう。今年は衆議院選挙もある。投票に行こう。政治家を志す若い人々を応援しよう。彼らは地方議会にいる。議員として経験を積んでもらうために地方議会で彼らを応援しよう。

世界は変えられる。我々は腐っても民主主義国家の一員だ。国造りの神話はエリートのものではなく、ひとりひとりの市民によってつむがれるのである。

Sugano `Koshian' Yoshihisa(E) <koshian@foxking.org>