狐の王国

人は誰でも心に王国を持っている。

リモートワークを20年くらいやってきた人間から見ると、マナー講師はなにもわかっちゃいない

日本は“マナー大国”?謎マナー乱立の理由をマナー講師に聞いたという記事。失礼クリエイターことマナー講師が謎マナーを乱立させているという批判はすでに一般的になってきてると思うが、そのいいわけである。だが見過ごせないことが書いてあった。

Mさんは「チームメンバーと話す際は、カメラはオンにすべき」だと考えている。

「私が古いんですかね。声だけでは相手の気持ちがつかみきれないから、せめて顔を見ながら話したいと思ってしまう。コロナ以前なら、ふと世間話をして距離を縮めることができたんですけどね……」

日本は“マナー大国”?謎マナー乱立の理由をマナー講師に聞いた

そんなわけがないのである。

オンラインにオンラインのマナーがある。ネットに棲むように生きて20年超、リモートワークも同じくらいやってきてる俺が本当のリモートワークのマナーを教えてやろう……というと大上段に構えた感じだが、まあさすがに20年くらいやってればそれなりに知見はたまりますって。

そもそも連絡はテキストベースがマナー

通話やビデオ会議では発言した証拠が残らない。一生懸命話したところで、話した内容の認識が食い違ってたら意味がない。せっかく発言の証拠が明確なテキストで連絡が取れるんだから、テキストで連絡を取るべきである。

テキストではどうしても説明しきれないとき、申し訳ないけど、という形で通話をすべきなのである

そもそも通話は完全に相手の時間を奪ってしまう。テキストベースならちょっとした作業の合間の数分、場合によっては数秒の隙間で返信できる。相手の時間を奪わないためにも、テキストで連絡するべきである。

通話のような時間を共に過ごさないといけないものを同期的コミュニケーション、チャットのように相手の時間とずれてても問題ないものを非同期的コミュニケーションと俺は呼んでいる。リモートワークでは非同期的コミュニケーションを中心にすべきだ。なぜなら相手の状況がどうなっているのかわからないのだから。

どうしても通話するときはカメラを強制しないのがマナー

そもそもリモートワークなんてどこで働いてるのかわからないし、仕事仲間が知る必要もない。おおむね私室で作業してることも多く、プライベートな部屋を見られたくない人もたくさんいるはずである。

コワーキングスペースかカフェなどで作業してることも多く、そういうところでの通話はそれこそマナー違反である。

俺などこないだお昼のお弁当を買いに行って待ってる間に連絡がきて、帰りのドライブ中に仕事の通話をしていたことがある。カーオーディオが Bluetooth で携帯電話と繋がって運転しながら通話するのに支障がないようにしてくれてるのは、これはもうガラケー時代からある機能だ。このときビデオはオフにしていたのは、もちろん安全運転のためである。

また zoom 等の最近のビデオ会議システムはそれなりにパソコンのパワーを食うことが多く、回線帯域にも負担がかかる。場合によっては参加者は海外の回線の細い途上国で作業してることもあり得るのだから、ビデオ会議を強制するべきではない。通話だけならさほど帯域もマシンパワーも食わないし、ビデオは画面共有でスライドや状況を見せる程度に留めるべきである。

俺は2020年の MacBook Pro 13インチを i7 で RAM 32GB で使ってるのだが、それでも zoom でみんながカメラをオンにしてると重たいことがある。3〜4人ならまだしも10人以上が参加してるとだいぶつらい。いまはマシになってるかもしれないが。

チャットでは人を呼ぶ前に用事を書く

これは昔から、それこそ20年前から何度言ってもなかなか聞いてもらえないことが多いのだが、先述のようにテキストベースのコミュニケーションは作業中の下手すれば数秒の隙間で返事してることも多い。

なので相手に通知を送ったタイミングですでに「用事」が書かれていなければならない。

呼んだだけというのは非常に最悪である。なにを返事したらいいのかもなんのために呼ばれたのかもわからない。数秒後には作業に戻るのである。その後に用事が書かれてても気づかないことも多い。

せっかく非同期な連絡手段があるのだし、こういう習慣のある人はそれこそタイピングも遅いのだから、まずは呼ぶ前にざーっと用事を書いてしまって、最後に「@koshian どう思う?」みたいにつけたらよいのである。

ちなみに20年近く前、いろいろと忙しかったので朝の発言に夕方返事して、その返事がまた翌朝に来たなんてことが数日続いてたこともあった。

本当に急ぎなら電話なりをかければよい。電話がかかってくるということは程度の差はあれなんらかの緊急事態であるという印である。

雑談用のチャット部屋を作っておく

ひるがえって、上記のマナー講師の言うように、雑談は存外大事である。だから雑談用のチャットルームは仕事用とは別に作っておくべきだ。Slack なら #random がそれにあたる。

そしてそこにネタ振りを適切にできる人がいなければ、雑談部屋は閑散としてしまう。

コミュニケーションを人に教えるマナー講師を名乗るなら、雑談部屋に適切にネタ振りをすることくらいちゃんとできていて欲しい。いまならワクチンの話題でもいいし、ニュースなどでもよい。おもしろかったアニメの話でもいいし、体調の話でも今日食べたご飯の写真を貼るでもいい。みんなが一言いいたくなるネタをふって盛り上げるのである。

そして慣れてくるとテキスト越しにもなんとなく相手の機嫌や状況をうっすら感じることもあるのである。これがニュータイプか。

リモートワークは孤独であるからこそ、そうした雑談で人と人とのつながりを維持するのは大事である。俺も昔からそういう雑談をするチャット部屋に入りながら仕事をしてきた。情報技術系の仕事をしてる人たちに Twitter 愛好者が多いのも似たような理由である。

それでも顔が見たければ……

それこそ zoom 飲み会でも zoom ランチ会でもやったらいい。リモートワークでは相手の状況がわからないのだから、きちんとオンラインで「待ち合わせ」をすべきである。またビデオ通話が主目的ならパソコンや回線の負荷もそこまで問題にならない。仕事で作業してるアプリが遅くなっても休憩中なんだから問題ない。これも20年くらい前だが、試しに CU-SeeMe というアプリでビデオ通話に参加したことがある。ふだん顔の見えない相手と話すのもけっこう楽しいものだ。

ワクチンがでまわろうと治療薬が発明されようと、我々はもう「重症化してときには死ぬ確率がめっちゃ高い風邪」のある世界からは逃れられない。また満員電車通勤などという誰にも人権がない習慣はとっととやめるべきだ。

そのためにも地方にコワーキングスペースをもっと作り、必要なときに都内のオフィスに行くような習慣を作るべきだ。俺も午前中はコワーキングスペースで作業して、午後にオフィスに顔を出すようなことはいままでにも何度もやってきた。午前10時を過ぎると電車も空いていて座れることもある。店が開く時間だからかベビーカーもたくさん見られ、電車から下ろすのにサラリーマン風の中年男性が手伝ってるのも見かけたことがある。余裕は優しさを生むのだ。

そもそもリモートワークなんて特別なことじゃない。オープンソースハッカーのみなさんたちは、30年以上前からオンラインで連絡を取り、ソースコードを共有し、いまの iPhoneAndroid の基盤になったソフトウェアを作り続けてきたのである。

ハッカーたちがどういうふうに考えてるかを知るにはこのへんの書籍がいいだろうし、きっとリモートワークのみならず、これから仕事をしていく上でも役に立つだろう。読み物としてもおもしろいぞ。

さあ、今日も楽しくリモートワークしていこう!

Sugano `Koshian' Yoshihisa(E) <koshian@foxking.org>