「恋愛も結婚もしなくなった日本は未曾有の先進国」 という記事。未婚の理由「めぐり合わない」 一方で「探していない」も という記事の感想文なのだが、まあ実にそのとおりだよねえと思うしかない話だった。
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自由主義社会は個人の自由意志こそが至上だ。誰にも強制されない代わりに誰も責任をとってくれない。自由とはそういうものだ。
自由主義を強く描いたゲームに、Assassin's Creed シリーズがある。
Nothing is true; Everythig is permited. 真実はなく、許されぬ事などない
これがシリーズを通して提示されるアサシンたちの信条であり、主人公たちアサシン教団は人々の自由を守るため、全体主義を是とするテンプル騎士団と世界の裏側で戦っていくのである。
だが、こうした自由を描いてきたアサシンクリード・シリーズも、その自由に疑問を呈していく。
I understand now. Not a grant of permission. The Creed is a warning. Ideals too easily give way to dogma. Dogma becomes fanaticism. No higher power sits in judgement of us. No supreme being watches to punish us for our sins. In the end, only we ourselves can guard against our obsessions. Only we can decide whether the road we walk carries too high a toll.
だが今ならわかる。信条が与えるのは許可ではなく……警告
理想は容易く独断と化し……独断は……狂信と化す
我々を裁く存在も……我々の罪を監視する最高存在もいない
己を……護る事が出来るのは己自身
進む道、払う犠牲を選ぶのは己自身
「その自由は、本当におまえを幸福にするのか?」
そう問われているようだ。
自分自身だけじゃない。自由を重じんれば重んじるほど、我々は他人の選択肢を少しずつうばっていることがある。自由主義社会において、企業は人を雇用するもしないも自由である。どうせなら気に入った人物を雇用したい。企業がそうして選り好みすればするほど、就活に行く若者たちはそれの要求に応えるべくいわゆる「量産型」と呼ばれるような同じような見た目になっていく。選考する自由が、選考を受けるものの自由を奪っていく。
こんなことはあちこちにあるのだ。上記記事のような恋愛や結婚にだってある。まずはその現実を認められなければ話は始まらない。
矛盾社会序説──その「自由」が世界を縛る という本には、そうした事例がいくつか紹介されている。
「Big, BlackDogSyndrome(大きく黒い犬の問題)」ということばがある。ア メリカの捨て犬の保護施設で用いられる語句で「引き取り手がなく殺処分さ れるのは、黒い大型犬ばかり」である状況を指したものだ。毛並みの明るい、 あるいは小柄な捨て犬は、比較的容易に引き取り手が現れる。一方、大きく 黒い犬は、万人受けするような外見ではなく、攻撃的で凶暴なイメージを持 たれがちで、引き取り手がなかなか現れないのだという。
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このような「大きく黒い犬の問題」は、キモくて金のないおっさん問題などとしてネットでもいくたびか話題になってきた。こうした魅力は実のところ生まれ持ったものだけでほとんどが決まってしまう。
確かによい姿形をしていることだけが有利に働くわけではないのだが、人々が好感を持つポイントというのはおおむね習慣によって形成される。曰く、箸の持ち方がきれいだとか、歯がきれいだとか、気遣いができるだとか、清潔感があるだとか、動作音が小さいだとか。こうしたものは生まれた家の習慣が反映されていくのである。
これは正直言うと実体験でもある。俺の生まれた家は職人の家系であり、粗野な言動や早食いが美徳であった。職人というのは思いのほか忙しいものであり、ちゃっちゃと仕事を片付けるためには儀礼的なことなどまどろっこしいことはしてられなかったのである。またたくさん食べてたくさん働くことを良しとされていたので、食べ物はおおいに与えられた。そうした食べ物はあとで栄養バランスを調査して気づいたのだが、脂質過多で食物繊維のほとんどない食事だった。おそらく職人が短い食事時間のなかたくさん体を動かすためのエネルギーを補給する食事だったのであろう。
そんな食事を現代社会のデスクワーカーがしていれば太るし体を壊す。こうした食習慣の見直しをいまでも少しずつ進めている最中だ。
そんな中で気づいたのだが、食事によって集中力も生産性もまるで違ってくる。脳を効率的に動かす習慣を身につけるには、脳を効率的に動かす習慣をもった家に生まれるのが至上である。それがなされなかったときに改善をするのは、習慣という無意識に埋め込まれたものだけに、まず気づくことが難しい。
こうした文化的な財産を「文化資本」と呼ぶそうだ。
文化資本を持たない者たちにとっての福音は、インターネットが普及したことである。情報爆発が起き、自分たちの習慣が悪い習慣であることに気づくことが増えた。よい習慣もぐぐれば見つかることが多い。
だがそれでも足りない。習慣の違いは他人と一緒に暮らすことで気づくことが多い。同じ家の中で少しでも生活をしてみると、歯磨きの仕方や片付けの仕方、食事を用意して片付けるまでの手順、様々なところで違いを発見する。それも相手に敬意を持ちながら見てないと絶対に気づかないだろう。
最初に紹介され記事で見つけたのだが、フランスではひきこもりでもデートする という。これも習慣の差として見てみると実はそんなに不思議でもない。ひきこもるほど社会で傷つき、家族の理解が得られなかったとしても、食事はするし散歩くらいはしたほうがいい。公園でも高くもない店のランチでも、異性と会って話す機会をみんなが作ろうとしてればそりゃ作れる。
先進諸国では子供の養育コストの増加からどこも少子化ではあるのだが、フランスが様々な出産子育てと就労の両立支援で出生率を回復させたのはこうしたデート文化の強さもあるのであろう。
日本も含め、アジアでは結婚するまで子供を産まない傾向が強いという。フランスのような対策は効果が薄いかもしれない。お見合い文化は廃れ、恋愛もしないというのでは、そもそも子供を生む前提を2枚も3枚も壊してしまってる状況だ。
日本の知識階層は新渡戸稲造の昔から、欧米の習慣をコピーしてくることを是としてきた。脱亜入欧路線を推し進め、先進諸国を急いでキャッチアップしなくてはならない後進国としてはそれもしかたなかったのであろう。だが日本も先進国入りし、独自の問題を発生させてるさなかに、欧米をコピーしてくる対策が果たして有効だろうか。そのコピーは、日本の状況を正しく認識できているだろうか。
日本では男女の賃金格差が高いと言われるが、実際のところ結婚すると男性の収入を使うのは配偶者である女性の役割になる。ファイナンシャルプランナーなどの話を聞けば、手取り月給の1割程度が適正な男性の小遣いだそうだ。残りの9割は家のことに使われ、たいていその権限は専業主婦である女性に持たされる。昭和の頃は自分の妻を「大蔵省」と呼ぶサラリーマンたちも数多くいた。こうした習慣は欧米にはあまり見られないものだ。そして権力とはお金の権限を持つものこそが強い。世界一、男より女が幸せな日本 などと言われるのもそうした習慣が要因であろう。
同時に、男性の不幸度が妙に高いのもやはり日本である。これはいわゆるセクハラ・パワハラ、そして長時間労働が労働環境に蔓延してるせいであろう。日本は「働かない」というだけで幸福になれるくらい、働くことこそが不幸の要因となっているのである。女性の社会進出により、そうした労働環境の問題がようやく注目されてきたとも言える。アファーマティブ・アクションの効果ここに見たりという気分だ。
昨今ようやく「男のつらさ」が注目されるようになってきたのはとてもいいことだ。それは労働問題に楔を打つことになるであろうし、労働組合が雇用維持にだけこだわるのも意味がないことに人々は徐々に気づいてきてる。
男性が男性であるがゆえにまず逃れることのできない「労働」という問題。そこが幸福なものになれば、子供を持つような余裕も生まれてくるだろう。人を愛する余裕も生まれてくるだろう。そうした余裕が生まれたとき、本当に異性を、人間を愛するかどうかなんて、わからないけれども。
あるいはそもそも「労働」というものから解放される可能性もある。優秀でなければ仕事が無い時代の幕開け はもうずっと前から始まっている。儲かっている企業ほどその自由を行使し、優秀でない人間を排除しているからだ。彼らからたくさんの税金を取り再分配をすれば、充実した生活保護やベーシックインカムや負の所得税で、働かずとも生きていける社会になるかもしれない。少なくとも金持ちからもっと税金を取れというのは、欧米では先進的な金持ちの意見としてスタンダードになりつつあるようだ。
むしろ目指すべきは、そういう働かない社会なのかもしれないね。
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