本当に好きなものは仕事にしてはいけない、なんてことはよく言われることだが、それはその楽しさに淀みが出るからだろうと思う。どんなに好物の食べ物でも、毎日そればかり食べてたり、食べたくないタイミングでも食べなきゃいけなかったら、好物とは言えなくなるだろう。好きなことを仕事にするというのはそういうことだ。
俺はコンピュータが大好きで、夢中でいじりまわして遊んでるうちにいつの間にか仕事になっていた。元々機械は好きだし、中でもコンピュータは俺を魅了してやまない魔女のような存在だった。
そんな魅力的な彼女も、仕事にすれば薄れる。存在はあたりまえとなり、恋焦がれるような胸の熱さも感じなくなり、時には見たくもなくなる。嫌いになったわけじゃないのに、ね。
そんな最中、一つの漫画作品に出会った。
- 作者: 瀬尾浩史
- 出版社/メーカー: アスキー・メディアワークス
- 発売日: 2012/06/27
- メディア: コミック
- 購入: 2人 クリック: 91回
- この商品を含むブログを見る
「うぶんちゅ!」は、Debian ベースのオープンソース・オペレーティング・システムUbuntuを学ぶ高校生三人組が主人公のショート漫画だ。実はネットでも公開されているのだが、単行本化決定の記事を見ると「同人誌でのみ発表している話や描き下ろしもたっぷり詰め込んでいる」とのことで、買う価値はあると思う。
この漫画、なんとも言えず感動的な展開が多くて、ちょっと涙腺が緩むようであった。コマンドラインに戸惑いながら、一瞬で処理が終ったときの爽快感。最新のアップデートを入れて動かなくなったときの焦りと、なぜかわきでる高揚感。主人公たちが遭遇してる世界は、俺たちが遭遇してきた世界だ。
あの UNIX や debian に出会ったころの、コンピュータがいとおしくてしょうがなかったころの、楽しくて楽しくてたまらなかったころの、あの気持ちがよみがえって来る。
ああ、これが初心というものか。
それなりに経験を積めば、何がダメでなにが正しいかわかってくる。正しくあるためにどうすればいいかも模索する。仕事となれば商売上の都合もかんがみる。なによりお客さんに喜んでもらうためにどうしたらいいかを考える。業界で生き残る道に懊悩したりもする。
違うんだ。そんなんじゃないんだ。どこかの他人の喜びじゃない。正しいとか間違ってるとかじゃない。お金なんかでもない。そう、ただただ楽しかったから、楽しいから僕らは夢中でキーボードを叩き続けて来たんじゃないか。
その事を思い出させてくれた、いや忘れかけてることに気付かせてくれた。「うぶんちゅ!」は俺にとってそんなコミック作品になった。毎日今日はどこをいじろうか、まだ触ってないあれを触りたい。そんなことを考えながら過ごしてたあの日々の感覚が、ようやく俺の中に甦りつつある。
絵柄に見覚えがあるなと思ったら、どうやら昔大好きだったアキバ署!と同じ作者さんだったようだ。Amazonのページを開くと「お客様は、2005/12/7にこの商品を注文しました」と出てきた。もう7年も前になるのか。
このアキバ署!という作品も、実際に起きたWinny事件やoffice氏事件などネットの事件を元にお話が作られ、その愛溢れる展開が大好きでしょうがなかった。うぶんちゅ!にも同様の愛を感じる。こういう人にもっと作品を描いてもらいたいなと思う。