狐の王国

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マスメディアの「思想なき反権力」が与党を有利に導いている

なにやらクソみたいな公文書偽造問題が起きて財務省ピンチかと思えばなぜか政権ピンチと語られてるのがよくわからないのだが、そのピンチのはずの現政権、どうも支持者がやたら多いようなのである。

なんとどちらのアンケートでも7割もの積極的支持者がいる。内閣支持率は42%程度のはずなのだが、比較的年齢層の若いネットユーザー中心のアンケートだから出た偏りのように見える。

実際のところここまで支持率が高いのは不思議である。アベノミクスがそこそこ成果を出してるとは言え、構造改革にはろくに手がついてないし政権とは無関係に景気回復期にかぶっただけだと言われたらまあそれもあるんかなという気もする。第一インフレ率など当初の目標をまったく達成できてない。

そこで俺も Twitter を用いて以下のようなアンケートを取ってみた。

びっくりである。他の方のアンケートでは「積極的支持」に票を入れた人が多かったのだが、安倍政権の政策を支持してる人は28%しかおらず、自民党支持者にいたっては4%ぽっちしかいない。ほぼ半数を占めるのは「野党に政権を取らせたくない」であり、「野党支持者たちのの言動が気に入らない」という人も20%もいる。これはどう見ても「消極的支持」のはずだが、「おまえらに政権を取らせたくないし言動が気に入らないから積極的に支持するぜ」ということなのだろうか。

なにより自民党支持者の少なさが驚きだ。あれほどの最大政党ですらこれとは、党単位で支持する人はかなりのマイノリティということであろう。つまるところ若年層に限って言えばほとんどが浮動票ということである。民主党政権時代に迷走してしまってリーマンショックからの回復も遅れ、震災などでてんやわんやだったことを思うと「あの時代に戻りたくない」という意識が強いのかなとも思ったのだが、自民党支持者がここまで少ないことを考えると別の要因にも思える。

リプライでいろんなご意見をいただいたのだが、どうも重要視されてるのは経済政策のようだ。メシが食えなきゃ理想もなにもあったもんじゃないのだからそりゃまあそうだろう。実際のところ野党が安倍政権の経済政策について的確な指摘をしてるところは見た覚えがない。的確な指摘というのは法人税率の引き下げがホントに効果あるのかとか賃金上昇につながってるのかとか、インフレターゲットを達成するためにこういうこともやる必要があるんじゃないかという例示などである。

もし経済政策だけで安倍政権が支持されてるというのなら、それは「安倍には期待できないが野党にはもっと期待できない」という思いが蔓延してるということになる。そうでなければ5年たっても目標達成できてない政権が支持される理由がわからない。

さて野党がここまで信頼を失っているのはなぜだろうか。それはおそらく「思想なき反権力」のせいではないかと思われる。

思想なき反権力に毒されたメディアと、流される我々

「思想なき反権力」は野党というよりは、マスメディアに蔓延している。最近わかりやすい事例があったので紹介しよう。

mainichi.jp mainichi.jp

放送法第4条について、2年前は「報道の自由に脅威」と見出しに書いた毎日新聞だが、現政権が撤廃の方針を固めたとたんに「番組の質低下の恐れ」と書きたてる。おまえはどっちのスタンスなんだよとツッコまれてもしょうがないだろう。こういうのが「思想なき反権力」である。ちなみに放送法第4条は「政治的中立性を保つ」ことをテレビ局に求める法律であり、違反によって電波停止措置もあり得るのかというのが話題であった。

もっとも苛烈な「思想なき反権力」報道は、やはり福島原発事故であった。福島に生きる人々の人権を無視した朝日新聞の報道などは今も多くの批判があるが、マスメディアではほとんど無視されている。まっとうに福島の現状を報道してるメディアはシノドスくらいのものだろうか。

synodos.jp

他にも薬害エイズ問題とでも混同したのか、HPVワクチンデマを反権力的な姿勢で大きく報道してきたマスメディアは、結果的にHPVワクチン接種を停止させ、日本から10万個の子宮を失わせる結果となった。これで少子化を嘆くのは笑えない笑い話である。

こうした「思想なき反権力」に毒されたメディアが報じる内容、膨大な国会でのやりとりの切り取り方、注視するポイントなどが、ますます野党を「思想なき反権力」のイメージに染め上げる。

野党もこうした「思想なき反権力」に不満を持たれてることは気づいているようで、立憲民主党代表枝野幸男が以下のようにツイートしていた。

残念ながらこうした反論は「思想なき反権力」の印象をますます強める。アピールすべきは賛成したか反対したかではなく、「どのような問題点を指摘し、どのような修正を要求したか」である。そこにこそ思想は現れるものであるし、こうしたものをなしに「反対した」「賛成した」ことばかり切り出されて報道されたら「思想なき反権力」のイメージはますます強くなるばかりである。

実際のところ超党派で策定に動いてる親子断絶防止法案など、DV加害者が子供に再会する危険などが取り沙汰され、修正されるなどしてるはずなのであるが、まったくそこらへんが報道されてるように見えない。単純な対立を描いたほうがテレビ映えすると考えられてるのかもしれない。

もちろん野党にも「思想なき反権力」がないわけではない。築地市場移転騒動のときのなにかに影響するとは思えないごく微量な有害物質を巡っての悪ノリとしか言いようがない姿勢は、野党としてはもっとも信頼感の高かった共産党さえ狂わせた。

「思想なき反権力」に絡め取られると安易にデマにも流される。これは俺もだまされてたので反省なのだが、ザハ氏デザインの国立競技場に至ってはその建築可能性を巡ってデマが蔓延し、デマの発信元をコメンテーターとして採用するテレビ番組まで現れた。オリンピックロゴのパクリ問題も明らかなデマであったが、やはり多くの人々がだまされていた。安易に騙されるのはHPVワクチンデマだけではないのである。我々は関東大震災の井戸に毒を投げ入れる朝鮮人デマを笑える立場にない。

未来のために

この経済政策が民主主義を救う──安倍政権に勝てる対案 を記した経済学者松尾匡は以下の記事でこのように書いている。

今、若者ほど自民党支持が高いことがしばしば報道されていますが、これを「若者が保守化している現れ」とみなしてはなりません。ナショナリズムもヘイトも、たとえあったとしても「後付け」です。極右「日本のこころ」の政治家を迎え、一生懸命左派・リベラル派を排除した「希望の党」が、若者の支持を集めることができず、若年層支持率で大きく自民党に水をあけられていることからも、彼らの自民党支持の本質が右派イデオロギーにはないことがわかります。

ただ望んでいるのは、雇用不安のないこと、まともな暮らしのできる賃金、少しでも人間的な労働条件です。この気持ちに現状でアピールできているのが安倍自民党だけであるという事実を直視し、それを圧倒的に乗り越えるアピールをしてください。

左派・リベラル派候補がアピールすべき要点 / 松尾匡 / 経済学 | SYNODOS -シノドス-

松尾匡氏は経済学者ではあるが左翼でもあり、どこだか忘れたが「どこの政党でもいいので安倍政権を倒したい政党にはいくらでも協力する」と書いていたのを覚えてる。見事なまでの反安倍の人なのである。

先述のアンケートを見ても、自民党支持が高いわけでも若者が右傾化してるわけでもなく、ただただ景気を良くしてくれる政治家とみなされてる人物が安倍晋三その人だというそれだけのことなのだ。そもそも日本に長期低迷をもたらしたのは財務省の方針である緊縮財政であり、それに反旗を翻したのが正反対のリフレ政策を採用した安倍政権なのである。

www.nikkei.com

財務省の緊縮方針を押さえ込み、経団連と交渉して賃上げに導き、機会があればリフレ派経済学者のクルーグマンからも直接話を聞き、松尾匡浜田宏一のようなリフレ派の経済学者をブレインとして迎えられるような政治家が求められてるのである。それをやってるとはいえ法人税減税とバーターに賃上げを要求した現政権は弱腰と批判されてしかるべきではあるが、他にそんな交渉ができる政治家はどこにいるのか、我々は知らないわけだ。

いわゆる左翼政権というのはどうしても福祉に金を使い込みすぎて財政を傾けがちではある。そういう意味では保守派の政権には有利な状況ではある。しかしそれ以上に「思想なき反権力」が嫌われてることは想像に難くない。

個人的に野党にオススメしたいのは「日本の電子政府化」を公約に掲げることである。ただ電子化するのではない。コンピュータとネットワークを駆使し、圧倒的な効率を叩き出す官公庁に生まれ変わらせるのである。そして霞が関から官公庁を解放し、日本各地の都市に職員を散らばせて東京一極集中の解消に動くのである。そのためにはまず党員全員にITパスポート合格を要件としてつきつけることだ。方針を定めるにしてもコンピュータとネットワークにそれなりに精通してなければ方針も定められない。コンピュータがわからない人にはコンピュータで何ができるかもわからないものである。

それが実現できれば日本の官公庁や役所はたいへん効率化され、民間の足を引っ張ることもなくなり、また民間企業の効率化のお手本にもなるであろう。

日本が誇る世界的企業任天堂は、自社のゲーム機の性能をどのように活かしたら良いか、見事なまでの「お手本」となるゲームを作ってゲーム機を売る。それを見たサードパーティが参考にし、よりおもしろいゲームを作ろうと切磋琢磨する。そうして任天堂トップランナーであり続けてきた。よいお手本を見せるというのは日本の文化にもマッチしてるはずである。

しかしそれもなにもすべては経済政策のまともさの上であり、思想を明確に打ち出して議論に望み、「なんでも反対」してるわけではなく「こういう修正が入るならよい」「こういう問題が発生するから反対」をきちんとマスメディアに頼らず国民に伝えていくことが肝要である。何のための誰もがメディアを持てる時代か。

政党が対立することは悪いとは思わない。競争あってこその品質向上ではある。なればまっとうに競争し、お互いの政治家としての政党としての品質を高め合えばよい。「あのイケメンはこんなに性格悪いからやめとけと囁くブサメン」になってはいけないのである。

Sugano `Koshian' Yoshihisa(E) <koshian@foxking.org>