狐の王国

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小学生からでも英語を学ぶべきなのは日本が落ちぶれたから

【特集】小学生から英語は必要か 文科省方針に賛否 - 共同通信 47NEWS という記事。

賛否両論あるようだが、はっきりいって今の小学生に英語は必須になるだろう。やっておくに越したことはない。

従来の英語教育というのは何より英語の文献を読み書きするためのもので、大学に入ってやっと意味を持つようなたぐいのものだった。これからは違う。カトコトでかまわないのでとにかく英語で外国人とコミュニケーションを取ることができることを目指さないといけない。

明治以来150年の日本というのは実にすばらしくて、多くの訳語を作り日本語でたいていの学問を身につけられるだけの本や資料を揃えてしまった。だから外国語が身につかなくてもなんとかなる国でいられた。

ところがそう言ってる場合でも無くなってしまった。21世紀に入り、情報爆発が起こったからだ。

インターネットにおける言語の使用 - Wikipedia

上記 Wikipedia の記事によれば、全ネット人口の3割近くが英語話者だそうだ。当然インターネットに書き込まれる情報も英語が中心となってしまう。他の言語では欠落があるわけだ。

Languages used on the Internet - Wikipedia, the free encyclopedia

実際に同じ項目の英語ページを見てみよう。そこには日本語版にはないインターネットのコンテンツが何の言語で書かれてるか、という情報がある。55.5% が英語だそうだ。日本語は4位だがそれでもたった 5% でしかない。

ついでにいえば日本語版のページは2013年のデータを元に書かれてるが、英語版は最新の2015年のデータにもとづいて書かれている。

日本語と英語ではこれだけ情報量が違ってくるのである。

そして英語はアメリカ人やイギリス人と話すためのツールではなくなっている。俺も英語で意思疎通をしたことのある人というと、英語圏から来た人なんて2〜3人で、大多数は他の国から来た人たちだ。タイ人、シンガポール人、マレーシア人、ベトナム人、ドイツ人、ラオス人、カンボジア人、韓国人、日本人(!)らと英語で意思疎通を(ギリギリなんとか、というところではあるが)やってきた。

俺は英語が非常に苦手でなかなかうまくはならないのだが、まあなんとか海外旅行レベルではあんまり困らないくらいにはなってきたし、動画を見ててもなんとなく言いたいことが把握できるくらにはなってきた。とても普通に「英語話せます」といえたレベルではないのだが、それでも英語の情報を検索したりするのにも非常に便利に使える。

また機械翻訳に頼るにしても日本語に翻訳してしまうより英語に翻訳したほうがわかりやすいことも少なくない。日本語というのはマイナーな言語なのでそこまでなんでも訳せるわけではないのである。

こうした「英語の世紀」の話は以前紹介した「日本語が亡びるとき」という本でも追体験できる。

koshian.hateblo.jp

どうやら昨年文庫版がでていたようなのでこの機会にでもぜひ。

まあそれだけなら小学生から学ばせる必要もない。中学英語をみっちりやればいいだけのことだ。

問題は英語と日本語が言語として非常に乖離しているということなのである。

これが韓国語やミャンマー語なら日本語と文法規則が似てるので、まだ覚えやすい。ヨーロッパ人が英語を学ぶ程度には簡単なはずだ。だが日本人が英語を学ぶとなるとぜんぜん違う言語を学ぶことになる。

おまけに日本語というのは世界でも音素数の少ない言語のひとつだ。中国語のように声調で意味が変わるもの(箸と橋など)もあるが、地方の訛りもあるのでさほど意識されない。韓国やベトナムが漢字を廃止できたのはおそらく発音が日本語とは比べ物にならないほど多様だからだ。同音異義語の数が日本より圧倒的に少ないのである。日本人同士で会話していても「それどんな字を書くの?」と聞いてしまうことがあるくらい、日本語は音素数が少ない。

つまりは外国語を学ぶとき、日本人は「日本語にない音」を聞き分けなくてはならないのである。

そんなものは子供のうちにやらないと身につくわけがない。子供の頃に音楽を学んだ人は外国語を覚えやすいというのだが、これも音楽を通して「日本語にない音」を聞き分ける訓練ができているからだろう。なので小学生の英語の教科はこういう「日本語にない音」を聞いたり発したりすることに費やして欲しいと思う。

そしてもう一つの理由はもちろん「日本が落ちぶれてしまったから」である。

日本は円高で物価も高くそうそう外国人が気軽に旅行に来れるような国ではなかった。反面、日本人が外国に行くといろんなモノやサービスが安く買えた。

俺がバンコクでよく食べた日本食レストランの定食は、2009年160バーツだった。当時は確か1バーツ2.7円くらいだったので、400円ちょっとくらいで食べられた。いまはタイも物価が上がり、180バーツになった。そして円安になったので1バーツ3.6円くらい。600円を超えてしまう。だったら日本で食べるのとさほど変わらない。

ちょっといいレストランで食事をしても2000バーツくらいだった。当時のレートなら5000円程度だったのだが、今のレートでは7000円以上である。

逆に日本のものがなんでも安くなってきた。500円以下で食べられるものも増えたし、運動するときに着てるシャツなどしまむらで180円だった。ここ5〜6年の変化はすさまじい。

当然円安で物価も下がってるのだから日本は「お得な旅行先」になった。2009年当時は700万人程度だった訪日外国人が2000万人にまで増えた。日本が「安くて手頃な旅行先」になったからである。

f:id:KoshianX:20160224062822p:plain http://www.mlit.go.jp/kankocho/siryou/toukei/in_out.html

そして日本は内需型国家なのに、その内需を支える人口は減る一方だ。2015年にはようやく少し上向いたが、一時的な現象だろう。今後「日本人」は減り続ける。内需も減り続けるのである。

となれば外国人に買ってもらうしかない。輸出依存度を高めたり、訪日外国人相手に商売をしなければならないのである。

タイはご存知のように観光立国なので、バンコク都内の中心地は割と英語が普通に通じる。スターバックスの店員で英語が話せない人は見たことがないし、たまに日本語も混じったりする。そう、2か国語話せるのは当たり前で、3ヶ国語以上話すのも割と普通なのである。

俺が日本国外で出会ってきたエンジニアたちも、2か国語しか話せない人というのはあまりいなかった。たいていは母国語+英語+αの3ヶ国語は話せるもので、すごい人になると7ヶ国語くらい話せる人もいた。

俺も一応日本語英語タイ語と3ヶ国語を学んではいるのだが、まあ実用性あるレベルまでもっていくのはやはり難しい。「ありがとう」を意味する言葉だけは現地語を覚えようと、ベトナム語の「カモーン(感恩)」とクメール語の「オークン・チュラン」だけは覚えたりもした。

そう、これからの日本人は英語なんてとっとと学んでしまって「3つ目の言語」を手に入れなくてはならないのである。未来の話ではない。これは「いま現在」の話なのだ。

言語というのは筋肉みたいなところがあって、使い慣れないとなかなかぱっと出てこない。俺はやはり外国語が苦手なせいもあり、レストランで "Can I have a menu?" の一言がぱっと出てくるまで1年くらいかかった。カフェで店員だと思われたのか "Do you work here?" と聞かれた時は walk に聞こえて「いや俺座ってるんだけどなあ」と不思議におもったりもした。


Learning English pronunciation - Work & Walk - Can you tell the difference? 英会話

英語なんてまだ音素数は多い方ではない。タイ語や中国語やベトナム語のほうが音素数は多いのだ。

こういうのはやっぱりしっかりと聞き慣れたり自分で発音してみたりしないと身につかない。それも早いうちのほうが耳は鍛えられる。

そういうわけで早期英語教育には大賛成である。とっととやって「3つ目の言語」を手に入れよう。

Sugano `Koshian' Yoshihisa(E) <koshian@foxking.org>