狐の王国

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クラウドコンピューティング時代は、もしかしたら日本が勝てるかもしれない

Google曰く「信頼性は劣るかもしれないハードウェアを2倍の数揃える方がよい」という記事。

近い将来、こういうGoogleのようなクラウドコンピュータが世界に5台程度残って、われわれが使うのはただの端末になる、という未来予測がある。

まあそれには完全には同意しないのだけども、確かに通常のコンピュータでは考えられない速度とスケールを持った巨大コンピュータがいくつか設置され、我々はそれに多かれ少なかれ依存して生活することになるだろうとは思う。

さて、その最先端であるGoogleクラスタの実態は興味津々ではあるのだが、上の記事によるとこのような状況であるという。

Googleクラスタはおよそ1800台のサーバから構成されているが、稼働開始年度の典型的なケースでは、1,000件の個別のマシン障害が発生し、ハードディスクドライブの障害は何千件という単位になるそうだ。もし配電ユニットが1つダウンすることにより500〜1000台のマシンが6時間ほど落ち、20台のラックが駄目になり、40〜80台程のマシンがダウン毎にネットワークから消える。5台程のラックは「不安定」になり、ネットワークパケットが半分ほど消滅したりする。クラスタを再配線する必要が1回は発生し、2日間に渡って5%のマシンに影響を及ぼす。また、約50%の可能性でクラスタのオーバーヒートが発生し、発生の際はほぼ全てのサーバが5分以内ダウン、リカバリに1〜2日かかるという事態が発生するとのこと。

Google曰く「信頼性は劣るかもしれないハードウェアを2倍の数揃える方がよい」 | スラド IT

これ見て思ったのは、「日本製ならありえない品質」ということだ。

いやわかってる。Googleが使ってるコンピュータは、基本的に我々が使ってるPCとそう変わりは無い。だからこそ安くてたくさん揃えられるんだし、信頼性も数を揃えることで担保してるのだからそれでいいのだ。

だがそれでも信頼性は高い方がいい。Googleの判断に逆らう事になるが、信頼性があがればこうした対応コストも下がるはずだ。

思い出してみるといい。日本の高度経済成長は何をもってなされたか。

たくさんの要因はあったにせよ、明らかなのは信頼性と安さだ。

日本車の性能は高い。免許を取るときエンジンのメンテナンスについて軽く勉強はするが、多くの人にとってそれは「使ったことが無い知識」だ。壊れないので2年に1度の車検で済んでしまう。

昔はドライブ中にボンネットをあけてかからなくなったエンジンをどうにかするなんてのもめずらしく無かったのかもしれないが、そんなシーンはほとんど見たことがない。

しかも日本車は諸外国の車より安くそれを実現してしまった。

そりゃ当時は日本円の価値も低かったというのもあるだろう。でも根底には日本人に根ざしてる気質があると思う。

「底辺のレベルが高い」

これは日本の持つ最大の武器だろう。*1

もちろん、これがクラウドコンピュータに適用されるにはいくつかの条件が必要になる。

  1. コンピュータの発展速度が鈍化すること(ムーアの法則の崩壊)
  2. 日本の著作権法はじめ知財のあり方が変わること
  3. 世界中で使われるウェブサービスが日本で生まれること

今はPCの発展が速いのでどんどん壊れてどんどん新しくしたほうが結果的にコストも安くなるという状況があると思われる。そんなときに信頼性を上げてもたいして役に立たないだろう。

ムーアの法則崩壊には疑問を持つ人も多いだろうが、俺はむしろクラウドコンピューティング時代がそれを後押しすんじゃないかと考えている。

なぜなら今のPCの性能向上はPCの普及にある程度依存しているからだ。市場が拡大してきたからこそ投資も大きくでき、それがムーアの法則を維持することに繋がってるのは間違いないだろう。

しかし本当に「コンピュータは世界に5台だけ」のような状況が生まれたら、市場自体が小さくなる。末端もサーバと同じコンピュータを使ってるからこそ今の状況があるんじゃないかと、俺は思うのだ。

権利関係も問題だ。
中山信弘先生がおっしゃるように、著作権法はもはや邪魔になってしまっている。生真面目な人が「どこそこのサイトは著作権無視」とか言い出すのを見掛けることがあるが、もうそんなこと言ってられる時代じゃない。

弁護士が、インターネット関係のベンチャー企業に対して「日本では危険だからアメリカに行きなさい」とアドバイスをしなければならないようでは、日本の将来は暗いでしょう。

著作権法に未来はあるのか?|BLJ Online|Business Law Journal - ビジネスロー・ジャーナル

こんな状況ではとてもやってられない。ニコニコ動画ドワンゴやエイベックスが裏にいるからできたようなところはあるんじゃないのか?

最後のひとつが一番難しくて一番重要だろう。日本で世界中の人に使ってもらえるサービスが生み出せなければ、日本人が作業するハードウェア部分が少なくなってしまう。それじゃ「日本の価値」を発揮できない。

しかしこれが成し遂げられたとき、日本はどこよりも安く、どこよりも安定し、どこよりも速いサービスが提供できるようになるかもしれない。

ラックひとつの精度を見ても、日本人が作れば世界中どこの国よりも完璧なものを作るだろう。
それはシミュレーション通りの風量がケース内を通り、設計通りの冷却性能を発揮するだろう。

組み立て精度の向上も、それに寄与することだろう。

冷却にムラが無くなり、どの部品も適切な冷却を受け、飛躍的に平均寿命を伸ばすだろう。

クラスタノードの交換頻度が下がるにつれ、こうした信頼性の高さ、寿命の伸びは、コスト削減に大きく寄与し、さらには同一体積での性能向上も見込めるだろう。

クラウドコンピュータ時代、「世界最強」のコンピュータを持つのは、日本になるかもしれない。

若干の、希望的観測ではあるのだが。

*1:残念ながらソフトウェア業界にはこれがあてはまらず苦戦してるようだけども

Sugano `Koshian' Yoshihisa(E) <koshian@foxking.org>