狐の王国

人は誰でも心に王国を持っている。

おれらが中国や米国と比べられてるってことなんだよ

会社はヒマつぶし?という記事。この記事がどうも今の日本の経営者層と若手の意識の解離を象徴してるような気がするので、ちょっと書いてみようかと。

いまちょっと所用でベトナムホーチミン市に滞在しており、id:elm200さんのお誘いでこちらの会社さんや大学を見学させていただいている。

そこで象徴的なものを見た。とある工科大学で見掛けた社員募集の張り紙である。写真も撮ってあるのだが、社名等も入ってるのでお見せできないのが残念だ。

その張り紙は2枚あり、一つは日本企業のもの、もう一つは台湾企業のものであった。

台湾企業のものはアメリカンスタイルだそうで、job description という仕事の内容をきちんと書いてある。その仕事に対して給料を出す、必要な能力は以下の通り、というように箇条書きで必須スキルが書いてある。

一方、日本企業のものは社員や働いてる風景の写真が飾られ、job description はなく、flashをやりたいんで一緒に働きませんか、くらいの曖昧さであった。しかしよくよく考えればこれは日本の求人広告そのものである。

いい悪いの問題ではなく、この文化の差がとても興味深かった。要するに日本のスタイルというのは「一緒に働く仲間」を募集するのだ。だから求人広告もサークルのメンバー募集みたいになる。flashをテニスに置き換えるだけでサークルの募集広告になる。

仲間だからこそ簡単には裏切らない(退職しない)し、仲間を助けるために自分の仕事じゃなくても手を動かすんだろう。

反面、日本以外はというと job description を明確にし、それ以上のことをやる必要が無いシステムを作る。そういうシステムが作られるのにはそれなりの理由があるのだろうが、一つの文化の差としてとても興味深い。

こういった募集がされてるのは中途採用とかではなく、学生向けであることに注目されたい。

日本企業は実際に入社するまで自分が何をするかわかってないという事例をよく聞く。やりたいことと違ってて辞めてしまったという話も聞いたことがある。今はともかく昔は大学院を卒業して7年も下積みをしたなんて話も聞いた。

なぜそうなるのかと言えばやはり企業が何をやってもらうか決めてないからだろう。「仲間」にひきいれてから役割を与えていく、必要な教育はそれから、というスタイルなんだろうな。

タイ人やベトナム人と話してると、「今こういう仕事に転職したくてそのための勉強をしている」という人をけっこう見掛けるような気がする。日本はというと資格を取るとかそんな話は聞くけど、それを取ってからのキャリアというとあんまり話を聞かない。

資格は「仲間」に入れてもらうための条件や有利になる要素であって、それで何かをするという感覚がどうも我々日本人は薄いように思う。

こういう勉強をしてきたのでその仕事ができます、という労働市場じゃないんだろうな。

どうも日本では「勉強」の価値を低く見積もられる事が多いようにも思う。「理屈じゃそうだが実際は」とか、「勉強してただけで仕事ができると思うな」みたいなことをよく言われる印象が強い。

逆に言えば勉強なんかしてなくても充分な経験があれば仕事ができる、という考え方が根底にあるのだろう。

だが実際はどうだろうか。日に日に仕事は複雑化し、専門性を増していく。とにかく実際にやってればどうにかなる、という仕事はどんどん減っている。そんな仕事は中国に行ってしまっている。日本はじめ先進国の仕事では無くなって来ている。あっても中国と価格競争をしなくてはならなくなっている。

恐らく若い子たちはそれを感じ取っている。優秀な人であるならなおさらだ。本当におもしろい仕事がしたいなら海外に出たり、外資に入ればいいことも知っているし、それだけの力もある。

それに「暇つぶし」を筆頭とする回答はすべて、大手企業に勤める、はたから見れば“レベルが高い”と思われる若手社員の回答である。

会社はヒマつぶし?:日経ビジネスオンライン

そうだろうなと思う。彼らが本当に優秀なら、おそらく一度は job description のはっきりした外資や海外企業と比較の上、あるいはヘタするとその試験に落ちて日本企業に入ってるのだ。何をやるのかわからない企業に入るなんて何をしたいかはっきりしてないからに決まってるじゃないか。

そしたら「暇潰し」くらいしか回答は無いのも不思議ではないだろう。

もちろん job description がはっきりしてるからいいってわけじゃない。現実にはそこから解離してもめたり、人はいるのにうまく動かせないことだってあるだろう。

だがグローバル化というのはこういうことなのだ。誰でもできる仕事は安い国に流れ、優秀な人材はそれを活かせる(と感じられる)企業がある国に行く。

当該記事でもっともひどいなと思ったのはこの箇所である。

それに、おそらくきっと社会人基礎力を完璧に備えている新卒社会人が入社してきたら、彼らは決まって言うだろう。「うちの上司、使えないんです」と。
そんな部下はいらないでしょう。少々出来が悪くても、自分をリスペクトしてくれる部下とやる仕事のほうが、ストレスなくはかどると思いませんか?

会社はヒマつぶし?:日経ビジネスオンライン

なんで「優秀な人より出来が悪い人の方がいい」なんて放言してしまうかね? そんなこと言ってたらそりゃあ優秀な人に逃げられるだろうよ。

優秀な人、能力のある人は、自分の力を活かせる場を求めてる。企業はそれを提供することで業績をあげる。それができる企業に優秀な人材が流れるのは当然のことじゃない? ついでにお金もいっぱいもらえる方がいいに決まってるじゃん。たぶん彼らの同窓生にはそういう人もけっこういたりするんじゃない?

もう一度書く。優秀な人材は国に縛られない。魅力ある仕事のある国へ自分の力で辿り着ける。そうでない人材は、中国と価格競争をすることになる。

これホントひとごとじゃないですよ。自分と同じ仕事ができるタイ人やベトナム人や中国人と会わないと実感できないかもしれないけど。彼らの給料を聞いて、自分の仕事の価値はそこなんだ、という感覚を味わうまでわからないかもだけど。

日本企業にとっても、日本人にとっても、今はこのグローバリゼーションに自分の価値が晒されてる時代なんだというのは、もっと自覚していいと思う。

Sugano `Koshian' Yoshihisa(E) <koshian@foxking.org>