狐の王国

人は誰でも心に王国を持っている。

おまえらのパーティは終わったかもしれないが、新しいパーティはもう始まっている

たぶん、すごく疲れてたんだと思う。去年は無尽蔵に湧き上がるようなクリエイティビティをあまり感じなくなっていた。年をとったということなのだろうかと一瞬思ったが、いやこれは単なる疲れだなと思い直した。休めばすぐ直るだろう。そう考えた。

休む場所を作るために、部屋を片付け、テレビを買い、ゆったり座れる椅子も買った。酒やツマミを並べやすいテーブルも買った。ここでリラックスする時間を作り、上手に休むことができれば、また復活すると考えていた。

どうもそうではないらしい。休んだところで湧き上がるような言葉の羅列は湧いてこないし、新しい技術への興味も薄いままだ。

熱海にも出かけてみた。温泉は心地よかったし旅館の料理も最高だった。8年ぶりにバンコクにも行った。あまりに久しぶりすぎてちゃんと行けるのか、お腹を壊さないかと不安で誰にも連絡を取らずに行ったのだが、それでも懐かしい人々に何人か会えた。

それでも戻ってこないものがある。

ここ数年、原点回帰に挑戦している。自分の原点はなんだったか。幼い日、強烈に興味を引きつけられたのはコンピュータゲームだ。ひとまずゲームをやろう。ゼルダの伝説ブレス・オブ・ザ・ワイルドをクリアした。Death Stranding Director's cut もクリアした。グランツーリスモ7の攻略も再開した。PSVR2+G923+PlaySeat Challengeの組み合わせは最高だ。

そういえばレーシングシムではいつもマニュアル・トランスミッションを選択するのに、乗用車では教習所を出てからマニュアル車に乗ったことがなかった。ちょうどクルマを買い替えなければならなかったのもあり、安い中古のMT車が出ていたので飛びついた。安いとはいえ自動車、Apple Vision Pro より高い買い物だったが、マニュアル車を操作する喜びはなかなかに代えがたいものがある。そういえば記憶にある最も古いおもちゃは、ホンダS800のステアリングだった。元々クルマが好きだったのだ。これも原点回帰だ。

思い返すと、いまでは e-sports と呼ばれるものに熱中していた人生だった。格ゲーを必死で練習していた時代があった。レーシングシムで夜な夜なサーバを立ててはレースを開催してた時期があった。いまも Rocket League をやり続けて、技の練習のために痛めた腕の治療に整形外科に通院するハメになったりもしている。

きっとそうこうしてるうちに強烈に作りたいものが湧き上がってきて、作り始めるのだろう。そういえばいままでもそうだった。そうしてるうちに手段と目的が入れ替わっていくのだ。いつもそうだ。そういう感覚を思い出してきたところだった。必要なのは休みじゃなくて、あれこれと夢中になる遊びなのだ。

p-shirokuma.hatenadiary.com

最近、こういう中年期だとかミドルエイジクライシスだとかそんな話がちらほらネットにあがってくるようになった。若かったインターネットユーザーたちももうずいぶん年をとったということなのだろう。それは俺も同じだが、まったく共感できない話ばかりだ。

ゼロ年代に海外に出てみた俺から見れば、日本社会はデフレとはいえ安くなんてなかった。円高もあり、海外の方がずっとチープだった。ライフスタイルなんてものは確立したことがない。いつでももっといいものを探していたからだ。

どこにいってもアウトサイダーの俺に「自分たちのためにある」と思えるようなところはどこにもなかった。唯一あるのはこのインターネットだけだった。それもまともな人たちが続々やってきてはインターネットをまともにしていこうとしていて、まともではない俺はどんどん居場所が少なくなっているような気がしている。

日本社会への危機感は15年くらい前のほうがよっぽど高かった。このまま企業は海外進出ばかりして国内に雇用がなくなり、新興企業はライブドアのように旧勢力によって打ち倒されるのだろうとしか思えなかった。

いまはどうだ。円安を背景に工場を誘致し、政府の支援を受けた新興企業もでている。政府は新興事業を支援するための制度を整え、あとはカネさえ動けばなんでもやれる下地を整えてる。インバウンド観光客の落とす金は、日本で雇用される人々の給与になり、それがまた消費をうながすだろう。

ものすごいチャンスが巡ってきているのだ。

おまえらのパーティは終わったかもしれないが、新しいパーティはもう始まっている。

ワクワクさせてくれる新しいものもどんどん出てきている。半導体はFinFET構造の限界に達し、GAA(Gate-All-Around)の時代へ突入しようとしている。数年前まで非現実的だった自然言語を本当に自然に操る人工知能も爆発的に広まっている。原子力も夢の核融合が思ったより早く実現しそうではないか。生きてるうちに見れるかもしれない。そのすべてが日本でもしっかり動き始めてるだろう。

この急速な少子高齢化は大問題だが、それがもたらす人手不足がデジタル化に大きく遅れを取った日本では設備投資としてたち現れるだろう。ここでインパクトのあるものが作れれば大きなチャンスになる。日本は先行してるだけに、同じく高齢化に悩む海外でも売れるものになるかもしれない。

中年になって道に迷ったら、原点に戻ればいい。自分が夢中だったものを思い出せばいい。そしてまた新しいものに夢中になっていくのだ。そう、死が訪れるその瞬間まで。

未来はいつだっていいものだ。世界は常に改善を続けている。俺たちもそうすればいい。いまよりもよいものを、いまよりもすばらしいものを、生み出せるのは未来だけだ。

Sugano `Koshian' Yoshihisa(E) <koshian@foxking.org>