狐の王国

人は誰でも心に王国を持っている。

ストリップ劇場の女子トイレノートから見るイイワケ要らずの「女性の性表現」

昨今なにやらずいぶんヒステリックな社会になってしまったなあと思う。たかだか胸の大きなヒロインの漫画が献血コラボに採用されたり、たかだか中国の麻雀ゲームの広告が駅にあったくらいで、まるで天地がひっくり返ったような大騒ぎをするような大仰な人々が増えてしまった。

そんな中、ふとこんなツイートが目に入った。

そうなのである。ヒステリックな彼ら彼女らが責め立てるような「性表現」というのは、実は女性の手による表現で、そのファンも女性中心ということが非常に多いのである。

幸いなことに最近はそういう「放火魔」な人々こそが「炎上」するようになってきたからまだよいものの、そうした女性の性表現の現実を知らない人々があまりにも多い。

例えば日本のポルノコミックの作者は男性向けでさえ少なくとも半数程度は女性だと言われている。未成年の少女が陵辱されるようなポルノコミックの作者にもファンにも多くの女性が存在してることもあまり知られてないし、想像だにされてないようだ。

男性誌の体裁を取りながら、その実は女性が表現し、女性が受け取ってるというのは存外ポルノコミックにはありがちな状況だったようだ。例えば最近俺も教えてもらって知ったのだが、あのセーラームーンの作者の武内直子も80年代はいわゆるロリコン誌を読んでいたそうだ。

単行本は読んでたのでこれも見たことあるはずなのだが、忘れてたのか記憶に残らなかったのか……。

さておきそうした「男性向けの体裁で女性が表現し、女性が受け取る」という場面はなにも漫画だけの話でもない。

俺も正直驚いたのだが、ストリップ劇場がそうなりつつあるのだそうだ。浅草ロック座というストリップ劇場には女子トイレにノートがあり、ストリップ劇場に通う女性たちが様々に書き込んでるのだそうだ。それは興味深いと思っていたら、なんと幸運にも取材させていただけるのだという。さっそく……といってももう1年ほど前になるが、実際に取材させていただいた。本当はもう少し早く書きたかったのだが1年もたってしまって申し訳ない。

花の舞台

浅草ロック座の入っているビルの写真
浅草ロック座

まず見たこともなかったので、実際にストリップのショーを見せていただいた。想像とはまるで違うので本当にびっくりした。いきなり始まったのはどう見てもアイドルのような衣装を来た踊り子さんたちで、本当にかわいらしかったのである。ストリップ劇場になんとなく抱いていたウェットな雰囲気とはまるで違っていた。

その次に始まった小宮山せりなさんという踊り子の演技を見て、また意表を突かれた。彼女の衣装と演技は、まるで女児アニメの世界から飛び出てきたようなかわいらしさだったからである。月に乗って宙を舞う姿は、魔法少女アニメのED映像のようであった。

他にも宝塚を意識したような男装があったり、セリフのない寸劇が繰り広げられたり。それぞれよく練られ、厳しい稽古をくぐり抜けねばできない舞台がそこにはあった。

どうやら彼女らは望んでその舞台に立っているのだという。先輩踊り子たちへの憧憬や、表現の幅など、それぞれ魅力を感じて自分の意志でその舞台に立っている。また、公演は1日に4〜6回はあるようで、そうとうキツい運動量になるはずだ。嫌々やっていたらとてもじゃないがもたないだろう。

一応裸になってポーズを取るという決まりはあるようなのだが、これも刑法174条(公然わいせつ罪)との関係で一定の型があるようだった。たかが性器が見えたか見えないかくらいで罪になるような法律のほうがおかしいのではあるが。

ただそうした決まり事さえ守ってればあとは自由なようで、本当に多種多様な演目が見られて充実した2時間であった。

女子トイレノート

浅草ロック座の女子トイレノート
浅草ロック座の女子トイレノート

先にショーを見てなかったら、スタッフの方に持ってきていただいた女子トイレノートに書かれてた意味がさっぱりわからなかったかもしれない。

一部抜粋してみよう。

ダンサーのかっこよさうつくしさなきました。 2回目です。またきます!

北海道から矢沢ようこさんを観に来ました!!が、 皆さん本当に素敵で魅入ってしまいます♡ また絶対来ます!!

本当に感動して勇気をもらいました!!!! ありがとうございました♥♥♥♥♥

沙羅さん、いっぱい好きです……! 美しすぎて、息が止まります♡

初めて! かっこいーー♡

知らずに見てたら自分とは感性の違う人たちがそう言ってるだけなのかなと思ったかもしれない。そんなことはなかった。本当に浅草ロック座の踊り子さんたちの演技は美しく、かっこよく、芸術的であった。

では彼女たちはアートの一種としてストリップを楽しんでいるのだろうか。

すずかねいろさんの(読み取れず)……!! おっぱい!!! ビール!!! 最高!!! 楽しい時間をありがとうございます

最後の方は別格Sexyで女の私がドキドキしちゃいました。 すてきな一日になりました! ありがとうございます♡

しおりーぬ〜~~今日もわかいいよ~~〜~~

初めて来ました。玲奈さんめちゃくちゃ可愛い!!! まこさん色っぽすぎて感動しました..♥ 楽しかったです!

清本さんの体がとてもキレイ...! 他の皆さんも美しくて……! キレイな作品を見れて感激です。

今回すごく楽しくてみなさんも可愛らしくエロく♡ ステキです!!!!

有沢さんセクシーすぎる♡♡大好きです! せいのさんカッコイイ~!!!

りさchan sexy♥すぎるぅ♥♥ さいこーに美しい(笑顔の絵)

ヤバイ キレイ

日常を忘れられます。 皆さんカワいくてステキで ダンスも練習大変なんでしょうね♡

尊い

とにかく体がキレイ ステキすぎでした。 かわいすぎます。 踊りもキレイでした

みんな、かわいいー、うつくしいー、サイコー、ありがとー!

はじめてきました!!!! キレイなからだ、肌、ポージングもキレイ、すごい!!! 強さに感動、感動!! です

みんな宝石みたいに美しいです(宝石の絵)

このへんを見ているとむしろ多くの女性たちが「性的に」踊り子さんたちを高く評価し、魅了されていることがうかがえる。

エロいとかかわいいとかは決して男性目線ではなく、女性目線でも同じように見えるのだ。考えてみればあたりまえのことで、そんなところに性差などあるわけがない。あると思ってるほうがおかしいのだ。

Male gaze(男性のまなざし)という概念があり、多くの芸術や娯楽作品がそうした影響のもとに作られている、なんてことを言い出す学者もいる。本当にそうだろうか。

もしそのような影響があるのであれば、男性向けの体裁をとったまま女性が発信し女性が受け手になることなんてあるのだろうか。あったとしてもごく例外的になってしまわないか。このようなある種の女性たちによる男性向け表現の「乗っ取り」とも言えるような現象が起きるだろうか。

浅草ロック座の女子トイレノートはたいへんな分量で、とても例外的な話には見えない。昨今ではこうしたストリップショーの客の半数が女性であることも珍しくないのだそうだ。

海外でもストリップショーを女性が見に行くことはあるようなのだが、やれ政治風刺がどうだ、太った格好でも魅力がどうだ、といった話が挟み込まれ「イイワケ」を入れておかねばならない雰囲気を感じる。

そんなイイワケはいらない、ただただかわいい、ステキだ、かっこいい、そんな憧れをもってショーを楽しんでる彼女らの言葉は、純粋に見える。

そう、幼い日、ただただそれが楽しくて紙にクレヨンで「お姫さま」を描いていたあの頃のように。「少女の憧れ」がそのまま現れるように。

男が男に憧れることもある。同じように、女が女に憧れることなんていくらでもありふれている。

磨き上げられた女の体は女が見ても美しく、ファッションも含めて「女性らしさ」がたたえられた容姿に心惹かれるのもまったくおかしなことではない。そうでなければ着せかえ人形などに夢中になる子供たちがあんなに多いわけがない。

考えてみればあまりにもあたりまえすぎる話なのだが、ついつい「女性らしい容姿」は男の好みに合わせてるように思い込んでしまう。それは偏見なのだというのを思い出させられた。男っぽい趣味をする女性を見て彼氏の影響だと思い込むのと一緒だったわけだ。ピンクが好きな女は男に媚びてピンクを纏うのではなく、本当にピンクが好きでピンクを纏うのである。

Just for fun! 楽しむことにイイワケは要らない。美しいもの、かっこいいもの、かわいいもの、それらに心惹かれることに理由も要らない。表現したいものを表現することにも、なんの遠慮も要らない。

男であるとか女であるとか、そんなことは関係なく、美しいものは美しく、かわいいものはかわいいのだ。そんなことを思い出させてくれる取材体験だった。

女子トイレノートを見せていただいた浅草ロック座のみなさん、取材に誘ってくださった荒井禎雄さん、本当にありがとうございました。記事を書くのが遅れて本当にすみません。

Sugano `Koshian' Yoshihisa(E) <koshian@foxking.org>