ときおり、絶望的な気分になることがある。この世の人間というのは、実はそれほど頭が良くないのではないかと思うときだ。
こんな記事が話題にあがっていた。別に俺はディベートやってたわけでもないけど、ここにあるような話し方、考え方は普通のこととして受け入れているものだ。
いや、別にタケルンバさんの記事が悪いと言ってるわけじゃない。無自覚にやってることを自覚的にやるためにも、こういう記事は非常に有用だと思う。
ただ、これを見てまた少し、俺は絶望的な気分になった。
「中華はイヤだ」と主張し、昨晩の料理写真を出したとしても、それだけじゃ何のことかわかりません。これまた「で?」という話。何でそういう主張につながるのか。何故そういう写真が出てきたのか。周りは意味がわかりません。主張と証明の間がリンクしないのです。唐突過ぎて意味が通じないのです。
実生活でも使えるディベートテクニック - タケルンバ卿日記
……もっとも、これを「理解しろ!」という妙な文化が日本にはありますがね。「空気を読め!」というヤツです。
そうなんだよ。主張と証明をリンクさせて話さないといけないのに、この「証明」の部分をものすごいないがしろにする奴がいる。それもけっこう頭いいはずの奴がやらかすのである。
だから「論理」なんてもの凄いぶっとばされちゃう。
「それって◯◯が××だから違うんじゃないですか?」
「おれが信用できないってのか!(怒)」
「待て待て、そいつが悪いと言うためには◯◯だというのを確認しないと」
「あいつの味方する気か!?」
「え、彼氏いるのに他の男と旅行行くの?」
「信用されてるもん」
「このニュースおかしくね?」
「NHKが放送してるんだからホントのことだろ」
こんな人たちがゴロゴロしてるのである。そりゃーバナナも消えるはずだ。*1
しかしながら、そいつらがどうしょうもねえバカかというと、実はそうでもない。人間的には尊敬に値する人もいるし、勉強や仕事も人一倍できちゃう人だったりするんである。もう俺の脳味噌では理解できない領域。
たぶん、こいつらは「人を信じる」ことで大幅なコスト削減をしてるんじゃないかと思う。
だって「◯◯さんの言うことだから正しい」と思ってれば検証コストかからないじゃん。たまに間違ったりもするけどまあ軽く流しとけば? 険悪になるとコミュニケーションコスト高くなるし。間違って損害でても利益が上回ればOKでしょ? 世の中ギブ&テイクよ。恩売っとけば恩返しがあるしさー。世の中そんなんで回ってんのよ。
俺は「えー」とか思っちゃうんだけど、たぶんみんなの脳内はこんな感じなんだろなあ。んでだいたいそんなんでホントに回っちゃうから別に困らないや、と。
こういうコミュニケーションが常態化してると考えれば、「あたしの言うことが信じられないの!?」と怒り出すちょっと偉いヒトとかの存在も理解できる。そりゃ普段から疑問を持たれたり否定されたりすることに慣れてなければパニック起こすわな。
こういう信用が人々の間で連鎖していくと、ネズミ算みたいに膨れ上がる。「これが効くよ」とか「これが正しい」とか言ってる人を他の誰かが信用して、信用した人をまた誰かが信用して、という連鎖だ。
そういう人々に必要なのは、考えるための情報ではなく、何が正しいか、誰が悪者か教えてくれる人。マスメディアはそういうところをよく狙って仕事をしてるなあとつくづく思う。
もっとも、必死で考えてもどうにもならないこともある。問題意識はあってもどう動いていいかわからないなんてシチュエーションはいくらでもある。専門知識が必要だったりね。そういうとき動くべき方向を指し示してくれる人がいると、とても助かる。だから悪いことばかりじゃないのも事実。
小泉政権時代にIQが比較的低めで構造改革に中立的な「B層」なんて言葉が一部で流行って、頭悪い人をB層だとはやし立てる人もいたみたいだけど、そもそも専門外の事に関しては誰でもB層っぽくなるんじゃないの?
どんなものでも、「どうでもいい」と思ってる人ってのはものすげー多い。どうでもいいと思ってることに関しては真面目に議論する気も考える気も調査する気も起きないから、振るまいはB層っぽくなるよね。政治家さんたちはそういう人らの票を集めないといけないから大変だよなあ。
んで世の中大半のことは「どうでもいい」事だったりするんだよね。グッドスピーカー症候群じゃないけど、こだわって考えなきゃいけないことなんて、実はほとんど無い。せいぜい自分の仕事に関係するところだけ真面目に考えときゃいいや、くらいの人が多いんじゃないの。特に日本みたいな妙に高品質な製品が溢れてる国なら、そりゃ考えなくても充分満足いく生活が可能になるよな。
だから自分が選択眼を持つより、人を信用した方がラク。日本以外の国のマクドナルドの制服はお金とか隠せないようにポケットが無いなんて噂を聞いたことがあるけど、そんな噂が出るくらい日本人って生真面目高品質。だったら信用しちゃった方が早いというのも、まあ理解できなくはない。俺も何も考えずreponさんオススメのコーヒーミル衝動買いしちゃったし。
だから論理弁証性なんか鍛えるより、信用するかしないかで判断する能力、言い替えればエアリーディング能力を鍛えた方が効率的、ということなんだろな。
で、そういう社会に馴染めない奴が日本は息苦しいとか思っちゃうわけね。あーあ。
*1:ちなみにバナナの輸入量の年別月別データなんかもあるので、どれくらいの人数が煽動されたら市場からバナナが消えるか試算してみるとおもしろいかもしれんよ