狐の王国

人は誰でも心に王国を持っている。

学校はバカを治せるほど優秀なシステムじゃない

学校ってバカを治療してくれんのかという記事が、IRCでちょっと話題になっていた。

id:dankogaiさんの記事なので、背景に学校への不信感と過剰な期待があるんだろうなと邪推して読んでしまった。いや、邪推というより共感かもしれない。

俺もdankogaiさんと同じく、はみ出し者だからだ。

中学は途中で行かなくなったし、高校になんぞ入ったこともない。大検を取って大学に行ってみたはいいものの、勉強らしい勉強なんぞしたこともなかったのでうまくいかず、ついでに体も壊して結局卒業してない。ちなみに大検はサイコロ鉛筆をころがしたら受かった*1

どうも日本社会というものを見ていると、一定の率で社会に馴染めない「はみ出し者」を作る社会に見える。

恐らく一般の方が「はみ出し者」と聞いて思い浮かべるであろう不良少年的イメージは、むしろ逆に受け皿がきちんと整備されている。素行が悪くて中卒や高校中退で社会に出ても、そういう人たちを受け入れる土建系の親方たちが存在していて、彼らも成長してそういう親方になったりする。

ここで言うはみ出し者はそういうタイプじゃない。IQはむしろ高め。学校の勉強は簡単すぎてつまらない。空気読めとかよく言われる。何かやろうとするたび誰かに止められる。あがけばあがくほど、周囲との溝が深くなっていく。どうにも日本的な馴れ合いや明文化されてないルールが理解できない。

たぶん、そんなタイプだ。

はみ出し者はそこに存在する事自体が苦しくて、どうにか社会を変えようとしたり、自殺したり、隠遁者となったり、あるいは海外に出たりしてる。

普通の人よりは頭がいいので、日本にある危機的状況もよく見える。逆にその危機的状況が普通の日本人のナアナアでなんとなく解決する様が想像できなかったりもするんだけどね。

こういうタイプは頭の良さもあって芸術に興味を持つことも多く、日本の古典文化の良さや、文明の高さも理解してたりする。だから日本は好きだけど嫌い。馴染めないんだもの。

韓国にもこういうタイプは多いらしい。日本と韓国はよく似てると言われるけど、やはりそうなんだろうな。

たぶん、dankogaiさんも(全部あてはまるかは別として)こういうはみ出し者タイプなんだろうなと、ブログをずっと読んでると感じる。や、俺も程度の差はあれそういうタイプだからなんだけどね。

こういうタイプにもどうにか社会と折り合いを付けてやってる人もいるだろうし、運よくそんなこと気にせず働ける場所を見つけた人もいるだろう。俺も友達のおかげで何とか生きてる。

ただ一つ言えるのは、高学歴だろうがなんだろうが、dankogaiさん言うところの「人が作ったゲームの高得点者」たちは、日本社会に馴染んできたか、どうにか社会に折り合いを付けてきた人たちだということだ。

後者はともかく、前者にいきなり「ゲームを作れ」と言っても無駄だろう。馴染めずはみ出すか、若いうちからどうにか折り合いを付けるだけの才覚に溢れた人間のほうがむしろ、そういうゲームを作る力を持ってるのではないか。

俺はそういう「ゲームを作る」力の無いことをもって「バカ」だとはまったく思わない。創造的な作業はまた別の世界だからだ。「人が作ったゲーム」で高得点を出せるかどうかとは、また全然違う資質だからだ。

dankogaiさんの言う「優秀な頭」の定義は理解できなくもない。

「優秀な頭」ってものすごく定義が難しそうで、私もそう思っていたのだけど、この年になってやっと言葉に出来る程度にわかった。気がついてみれば簡単なんだよそんなの。

頭がどれだけ優秀か、というのは、どれだけのことを自分ごととして頭がとらえられるか、ということ。裏を返せば、それをどれだけ社会ごとという名の他人ごととして頭がとらえるかが、バカの度合いということ。

404 Blog Not Found:学校ってバカを治療してくれんのか

だがこれはある程度、経験に左右される。経験に左右されるということは、若い人間にはあまり期待できない能力だと言うことだ。少なくとも「人の作ったゲームの高得点者」という基準とはまったく関係無い。

そうなんだよ。学校っていうのはあくまで「人の作ったゲーム」。そこの高得点者だからっていきなり創造的な事ができるとは限らない。それこそ「優秀」の定義が違う。

大学はいくぶんマシだが、小中高あたりはその度合いがずっと強い。地頭が悪くてもがんばってドリルを一所懸命やってる子がちゃんと成績を残せるシステム。だからこそ頭からっぽにしてひたすら教師のしゃべってる事を聞くだけでそこそこ点が取れちゃったり、学校で教わる事なんて図書館で読んだ本でとっくに知ってるような人間は、伸び悩んだり学校がつまらなかったりして「はみ出し者」になりがちなんじゃないか。

日本の教育システムは良くも悪くも「底上げ」が基本で、上を伸ばそうというシステムじゃない。その反省から導入したゆとり教育も、愚かな市民とシステムを生かせない教員によってもろくも崩れ去った。

もちろんこうした例に当てはまらない学校も存在するはずだが、全体としてはそう多くはないだろう。

学校はバカを治療するところじゃない。強いて言うなら、バカでも生きていける術を身につける場所だ。

だから「公教育が想定しているバカ」以外の人間は、「9年間の義務教育がいかに役に立たないかを徹底的に教えて頂きありがとうございました」と言うはめになる。俺も学校教育が役に立ったためしなど無い。

元記事にある京都大学の状況は俺はまったく知らないが、いかに最も優秀な人の集りと言うべき最高学府の一つとはいえ、たかだか20代入りたての若造に何を期待してるのかと思う。

学生時代から起業して成功しちゃうようなひと握りの才覚にも幸運にも恵まれた人間のような行動を、彼ら全員に求める気か? 時代に呼ばれたように現れ、インターネットを駆使して短期間で高品質のコードを書けるまでに成長した若手hackerたちのような事例が、いまあらゆる業種にまで浸透してるとでも言うのか?

俺の身内にも理系の大学院まで行って就職先が決まらない奴がいる。企業が高学歴者を求めてないのは、企業が研究開発に金を使わないか、大学が企業の求める人材を作れてないか、あるいはその両方だろう*2

どっちにしても個人の問題じゃない。社会の問題というと違和感があるが、そちらのほうがよほど近い。個人でやれるのはもう一つの反応記事にあるようなやり方くらいだろう。

それを個人の問題にしてしまったりバカ扱いで終らせてしまうなら、それこそ本当にバカな行為だ。今は確かに時代の過渡期で学生には辛いだろう。次の時代には次の時代なりの教育と雇用があるはずで、そういうシステムの変革もまた必要とされてるはずだ。

それこそ、企業と学生と──もっと大きく言えば国家とも──win-winな関係を築くためにね。

*1:ありえない答えが選択肢の1/3くらいは含まれてるのでそれ除外するとけっこう点取れるのよ

*2:求めてる人材が「使いたいときに使えていつでも捨てられる人」だったりするのかもしれないけどね。それはそれでやはり社会問題だろう

Sugano `Koshian' Yoshihisa(E) <koshian@foxking.org>