昨日の記事には、この手の話をするといつもそうであるように、「Windowsにはこんな魅力があるんだよ!!」という意見がウェブやチャットで寄せられた。
代表としては以下のようなもの。
とりあえずショボイながらも絵を描くのでPhotoshopが無いと色々と困ります。ペンタブレットのドライバも。SAIも?
Vocaloid MEIKO はWindows版しかありません。姐さん最高!
DTMはズブの素人なのであれですが、DAWはともかくフリー音源とかほとんどWindows用ですよね。
ニコニコの動画作るのにはWindowsムービーメーカーやAviUtilやその他様々なソフトウェアのお世話になっております。ありがたや。
電子工作に関してはもうWindows一択のような気がする。Xilinx ISE, Quartus II, MPLABやら秋月のPICライタやらROMライタやら。
NetHack brass blog
お気づきだろうか?
id:y2k700さんが挙げてくださったWindowsの魅力は、すべて俺が書いた「ゲームが動く」の「ゲーム」を別のものに置き換えてるだけだ。
これはid:y2k700さんだけではなく、チャット等で寄せられた意見の大部分がそうなのである。
「◯◯が動く」というのがOSのメリット? そのOSの魅力?
それ、「アプリケーションの魅力」じゃないの?
魅力的なアプリケーションが動作する事は、確かにそのOSを利用するメリットをもたらすだろう。
だが、それはOS自身の魅力ではないことに、そろそろみんな気付くべきだ。
かつて、PC-9800シリーズという「国民機」と呼ばれるほど普及したパソコンがあった。
そこには一太郎やロータス1-2-3、各種ゲームなど、魅力的なアプリケーションがたくさんあった。
だが、PC-9800シリーズの魅力はアプリケーションが存在してたことだけではない。高速かつ簡便な日本語表示機能があったからこそ普及し、普及したからこそ魅力的なアプリケーションが集まって来た。
しかし、当時中心的に使われてたMS-DOSというOSを動かすのに充分にして過剰な速度をもった486というCPUが普及価格に入った頃、PC-9800の魅力は急激に薄れた。
安価なAT互換機で動き、過剰になったCPU速度を日本語処理に回すことで実用的な速度で動くようになったMS-DOS/Vの台頭。
そしてWindows時代の幕開けである。
とくにWindowsはAT互換機で動かそうとPC-9800で動かそうと、同じソフトウェアで文字を描画するので、速度差はまったく無くなってしまった。
そうしてMacが成し遂げられなかった普及価格帯でのGUI環境を武器に、Windowsは市場に広まり、魅力的なアプリケーションたちも続々とWindowsに対応していった。
PC-9800を使うメリットはそれこそ「ゲームが動く」くらい*1で、特にPCゲームがその頃はほとんどアダルトゲームくらいしかなくなっていたので、
PC-9800ユーザー = エロゲマニア
という屈辱的なイメージすらまかり通ってたのである。
「あー、うち98なんで……」
「あー、エロゲは98ですよねー」
「いやエロゲやらないんですけど……」
「いやいや、好きなんでしょー? 隠さなくても(笑)」
「ホントにやらないってば」
「いやいや(笑)」
実際にあった会話である(涙)*2
そのうちWindowsの普及が進み、PCの性能が上がるにつれ、ゲームもWindowsに対応していった。まだ98でしか動かないソフトも残ってはいたが、ニッチすぎる代物ばかりだった。
こうしてPC-9800シリーズは幕を閉じる事になった。
この事で当時PC-9800ユーザーだった俺が学んだのは、「多くのアプリケーションは普及してるところに出る」ということだ。
最大シェアを持ってる環境に向けて製品を作るのは、そりゃ当り前のことである。
そして時代が変わり、その環境特有の魅力、メリットが消えてしまえば、最大シェアなんてのは簡単にひっくり返る。
企業は過去資産のためにWindowsを使い続ける? それが真だとしたらいまも一太郎とロータス1-2-3を使い続けてる企業がごろごろしてることだろう。
そんなときに「◯◯が動く」なんて理由をメリットとして挙げるのは、言ってしまえば愚の骨頂。そんなものは最大シェアだから出てるだけのことに過ぎない。
Windowsが広まったのは、「GUI環境が安価に手に入る」からだ。その時点では確かにそれはメリットがあった。
だが高嶺の花であったMacは今やPCよりも下手したら安いくらいになってしまったし、Gnome/KDEといったfreeなGUI環境も手に入るようになった。
もっともメジャーなコンピュータ利用目的であるOfficeも無料の代替物が出てきている。
暴論覚悟で言わせてもらえば、Office以外の用途などPC-9800に捨て置かれたソフト同様ニッチに過ぎない。
だからOSの、環境のメリットをあげるなら、その環境特有の魅力を挙げなくてはならないのだ。
前の記事で書いた「コンテキストメニューがよくできてる」なんてのはなんで誰も挙げないのか不思議に思う。Macあたり使ってみればいかにWindowsの右クリックが便利かわかるのに*3。
あと俺は使ったことが無いが、マイクロソフトの有償サポートが非常に優秀だという話も聞く。
そういった環境特有の魅力、メリットを考えたとき、どうしてもMS-Windowsにはそれが少ないのである。
そりゃあそうだ。WindowsXPが出たのは2001年。7年も前のOSなのである。
7年もたてばMacだってLinuxだってものすごい進化を遂げている。Vistaで失敗したWindowsにとっては、置いていかれた格好である。
Macはシンプルで扱いやすいGUIに3Dデスクトップのメリットをうまく載せることに成功しているし、UNIX系OSのメリットをそのまま享受することができる。SpacesとExposeは一度触れると戻れなくなりそうなほど便利だ。
LinuxももちろんUNIXとしてのメリットはあるが、Gnome/GDEといった完成度の高いGUI環境が存在し、何よりライセンスにかかるコストがゼロだ。よくも悪くもMacやWindowsの影響を受けていて、ExposeやSpacesと同じようなことをCompiz Fusionで味わう事もできる。
一気に追いつき追い越そうとしたWindows Vistaにいたってはあの有り様である。