狐の王国

人は誰でも心に王国を持っている。

オンライン非言語コミュニケーションの幕開け

Apple が噂のスマートウォッチ、Apple Watch を発表した。個人的にはジャッキー道斎さんの提案により「りんごっち」と呼ぶことにした。

Apple Watch Comes With Its Own Terrifying, Animated Emoji

さてこのりんごっち、意外にとんでもない機能を備えてる。時計の盤面にさらさらと書いた図形をそのまま他のユーザーに送信できるのである。図形を描き送信して消える動作は実に美しい。これは見たところ、3Dのスマイリーの顔を変形させて送ることなども可能なようであった。米GizmodoはApple Watch Comes With Its Own Terrifying, Animated Emojiとして伝えてる。

これを見て真っ先に思い出したのが enchantMOON 、そして LINE であった。

enchantMOON は描いたものがオブジェクトになってネットワーク透過性を持つ。手書きを認識してくれるところなどは素晴らしかったが、Apple はあえて限定的にすることで使いやすいものを提供しようとしてるようだ。

LINE を思い浮かべたのは、これがスタンプ同様の非言語コミュニケーションであるからだ。おそらく Apple Watch には LINE のスタンプストアのようなものが搭載され、スマイリー以外の3Dオブジェクトを加工して送信したり、手書きにもテンプレートのようなものが搭載されるかもしれない。

こうしたノンバーバルなコミュニケーションはまさに LINE が切り開いたものと言ってもいい。過去にもお絵かきチャットや絵文字などがあったが、コンピュータ的な意味での文字列から離れたコミュニケーションツール、それもある程度大きな規模で提供されて大成功を収めたものとしては LINE のスタンプがマイルストーンであったろう。

こうした手書きコミュニケーションに、日本的、アジア的なセンスとしてのポップさと調和させるのは非常に難しい。enchantMOONApple Watch もやはり LINE のようなアジア的ポップさとはかけ離れたデザインだ。つまり日本で作って受け入れられるのが難しい代物という事になる。

なので LINE が即席手書きスタンプのような機能を導入するのは難しいのではないかと思ってる。デザイン上、それがとても浮いてしまうから。

元々コンピュータのコミュニケーションにノンバーバルな要素を持ち込んだのは顔文字であった。「(^-^;)」や「:-)」といった顔文字は古典であろうし、今では Unicode で増えた文字を使ったもっと独創的な顔文字が作られてる。アスキーアートのたぐいもそうだろう。

人間は、非言語コミュニケーションを求めてるのである。言葉に乗らない思いを表現したいのである。従来の絵かきチャットなどがうまくいかなかったのは、もちろん誰にでも絵を描く能力が備わってるわけではないからである。 LINE はスタンプという形でそれを提供した。Apple手書き領域を狭くすることで絵心の差が出ないようにし、なおかつ動く3D絵文字を用意した。LINE のスタンプが Facebook にまで広がったように、おそらくこうしたアプローチは成功例が出るとフォロワーがぐっと増える。うまいやり方がわかるからだ。

Apple手書きチャットがうまく行くかはわからないけれども、Apple のことだからそうとう練り込んできたはず。おそらく使いやすいものになってるであろう。そうしてモデルを得た開発者たちがフォロワーになって、ライバルとして立ちふさがるようになる。

そうしてオンラインの非言語コミュニケーションが加速し、ひとつの時代の幕開けとなるだろう。絵にも言語はあるが、自然言語に比べればたいした分量じゃない。むしろ参加人数が増えて語彙や文法が充実してしまうかもしれない。気がつけば見知らぬ外国人とオンラインで非言語コミュニケーションをとっていることになるかもしれない。

そんなことを想像させてくれた今日の Apple 発表会であった。その時代の勝利者は誰になるのか、今は予測もつかないけれども。

Sugano `Koshian' Yoshihisa(E) <koshian@foxking.org>