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狐の王国

人は誰でも心に王国を持っている。

あれが悪人だと指さす者の主観が悪を定めてる

かつてソクラテスは「善とは何か」を問いかけた。みな善や悪についてわかったつもりでいる。あれはいいもの、悪いものだと簡単に判断している。特に悪に対する判断は非常に軽薄だ。

中田宏「政治家の殺し方」という連載がある。政治家の殺し方という本の抜粋だそうだ。ここで無実の横浜市長がメディアや民衆によって「悪」にしたてあげられる様子が描かれている。

政治家の殺し方

政治家の殺し方

こんなことは日常茶飯事だ。でなければこれほど日本の首相がころころ入れ代わるものか。誰かを悪にしたてあげることは、バカみたいに簡単だ。だって誰も本当の「善」も「悪」もわかってないのだから。

「悪」というものを考えるとき、とてもよい材料がある。昨年その子供向けのようなタイトルと絵柄からは想像もできないほどハードな展開でアニメファンの外側にまで流行した「魔法少女まどか☆マギカ」に登場する「キュゥべえ」というキャラクターだ。

キュゥべえがどのような存在かというのはキュゥべえ先生から学ぶ交渉術という記事あたりでも参照してもらえればいいだろう。

さてこのキュゥべえ、一見すると少女達を言いくるめ、その命と魂を不当にだまし取る悪の存在に見える。本当にそうだろうか?

キュゥべえは目的を持っている。宇宙のエントロピー増大を食い止めるという目的だ。

「まどか、君はエントロピーっていう言葉を知ってるかい?」
(中略)
「僕たちの文明は、知的生命体の感情を、エネルギーに変換するテクノロジーを発明した」
「ところが生憎、当の僕らが感情というものを持ち合わせていなかった」
「そこで、この宇宙の様々な異種族を調査し、君たち人類を見出したんだ」
「人類の個体数と繁殖力を鑑みれば、一人の人間が生み出す感情エネルギーは、その個体が誕生し、成長するまでに要したエネルギーを凌駕する」
「君たちの魂は、エントロピーを覆す、エネルギー源たりうるんだよ」
「とりわけ最も効率がいいのは、第二次性徴期の少女の、希望と絶望の相転移だ」

魔法少女まどか☆マギカ WIKI - ネタバレ考察/台詞集/キュゥべえ

現実の物理学は置いておくとして、彼等は宇宙の均衡を守ろうとしている。大きく見ればそれは種の保存であり、世界の崩壊を遠ざける善行である。

彼等のやってることは身近な事例と何が違う? 収入の多いものを見付ければその半分を税として徴収し国家運営の資金としたり、資産の豊富な家庭に生まれた者からはそれを相続するときに最大50%もの課税をするのと何が違う?

法律だからだというのなら、そのような法律に同意した覚えはない。我々が選挙権を得る前に成立した法律なのだから当然だ。まだ契約をせまるキュゥべえのほうがマシではないのか?

人権? 彼等は人間ではない。異種生命体の命を軽んずるのは人間も同じじゃないか。鳥や豚を食べるのと何が違う?

簡単なことなのだ。我々は善や悪を絶対視しがちなのだ。考えてみればあたりまえのことで、善悪にはそれを定める主観が求められる。その主観の主体が個人であることもあるし、大なり小なりの共同体や組織であることもある。

ひとことで言えば、「我や我等に害なすものが悪」なのである。善はその反対、我や我等に利するものということになる。

善悪は主観で決まる。客観した世界に善悪はない。

誰かがそれを悪だと言うとき、そこには誰かの主観がある。誰かが「それは我等に害なすものだ」と言っている。その「我等」が誰かということを、一人一人が考えなくてはならない。

そう、自分自身が発する「我等」という言葉に、どこまでが含まれるのかということも。

Sugano `Koshian' Yoshihisa(E) <koshian@foxking.org>