狐の王国

人は誰でも心に王国を持っている。

定食屋で一人飯食っちゃいけねーのかよ

先日バンコク伊勢丹に行った際、山盛りのキャベツの千切りが食いたくてたまらなくなった。ふと見ると紀伊国屋の隣に「さぼてん」の看板が。おお、トンカツ屋さんではないですか。しかもみそ汁とキャベツはおかわり自由らしい。しかも日本でちょっといい店で食うトンカツ定食の半分近い値段で食べられるではないですか。こりゃあいい。

ということでさっそく一人でぶらりと「さぼてん」に入ったのだが……。

店員「何名様ですか?」
おれ「一名様です」
店員「お、お、お、おひとりさまですかっ!?」

あー……。そうか、考えたら290バーツくらいのトンカツ定食って、日本円なら800円くらいだと思うけど、こっちじゃカオマンガイが10杯くらい食える値段なんだよな……。ようするに現地の感覚では1食4000円近くするような高級料理店……。

大戸家なんかもあるのだけど、どうも下は200Bくらいかららしい。安くても2000〜3000円という感覚なんだろうなあ。そりゃそんな高級料理店に一人で入るなんて普通無いよな……。

で、そんな感覚に少し慣れて来ると、100Bが偉い高く感じるようになる。

こないだ名刺入れを買いにTwitterで勧められた無印良品に行ってみたのだが、なんとアルミの名刺入れが285バーツ! たっけーーー!!!

あーでも冷静に考えると日本円で800円くらい? 元の値段は600円か? まあそれくらいなら関税とかもあるし妥当な値段に見えて来る。600円は高くない……けど285Bは高く感じる……。なんか清水の舞台から飛び降りるような気分でクレジットカードで名刺入れを購入……。

もうね、そのへんの屋台で3人くらいで生牡蠣とか頼んじゃってがっつり飲み食いしたって1000Bとかなわけ。日本の居酒屋でこんなに食ったら1万円じゃきかねーよな、ってくらい食ってもそんなもん。そういう金銭感覚と、日本円換算の感覚との間に、えらいゆれ動いている。

今いるサービスアパートメントの洗濯機が60B、乾燥器が80Bなんだけど、それ言ったら「高い」って言われた。ちょっと歩いたところに20Bくらいで使えるコインランドリーがあるんだってさ。

40Bもオトクならそっちに行くか、とか思ったんだけど、40Bって100円くらいなわけですよ。100円ケチるためにえっちらおっちら猛暑の中洗濯物運ぶのかって思うと、うーんとうなってしまう。部屋と同じ建物の中なら洗濯機まってる間に仕事もできるし……。

まだバーツだけで考えられないのが悪いんだろうけど、ふと無意識にすげえリッチなことしてたりするのよね。もったいない。

タクシーでデパートにいってぶらっと本や雑貨を買って帰るとかさ、円換算ならたいしたことしてないわけ。だってサンデー買ったり無印良品で600円の名刺入れ買ったりしてるだけなんだよ? タクシーだって日本円でいえばペットボトルのコーラ飲むより安いし。

でもよくよく見てみると伊勢丹の入ってるビルは、超高級ブランド店がどっちゃり入ってる金持ちしかこないようなビルだったりするのさ。その中に無印良品とかが入ってるわけ。帰りにビルの中の喫茶店でコーヒーを1杯飲んで……

ふと気がつくと回りは妙に小奇麗な奴ばっか。汗だくのTシャツで座るような椅子じゃないような気がして来る。目に飛びこんで来るのは高級ブランドばっかしだし、店員も日本のバイトじゃありえないほど訓練されてる。日本でこんなことやったらコーヒー1杯1000円以上になるだろうなあ……。

ああ、いま俺はそういう店にいるんだ。コーヒー一杯1000円とか2000円とかするようなところで休憩してんのか。そう気付いたとき、このコーヒーの100バーツが偉いもったいなく感じる。路上で売ってるコーヒーは20〜30Bだもんなあ。10Bの店もあると聞いたっけ。

紀伊国屋のロゴが入った手下げ袋がやけにまぶしく見える。中身はサンデーなのに。昔、ショップのロゴが入った紙袋をファッションの一つとして持ってたなんて話があったけど、なんとなく気持ちはわかるような気がする。だって高級ブランドショップで買い物帰り風味だもんな。しかも妙にモノがいいし。この袋持ったまま30Bの屋台で飯食ってたらなんか狙われるんじゃないかという気さえしてくる。

ほんっと、リッチなとこはとことんリッチ、貧しいところはとことん貧しい国だよなあ。
なんともかんとも。この感覚に慣れるのはちょいと時間がかかりそうだ……。

Sugano `Koshian' Yoshihisa(E) <koshian@foxking.org>