狐の王国

人は誰でも心に王国を持っている。

なんでも才能のせいにするなよ

ここ最近、少し気になる記事があった。

どうもこういう記事を読んでると、「何を言ってるんだ」という気分になる。

清掃やらレジ打ちの人の中にも、努力とかじゃ到底到達出来ない技術を持った人がいるって認められないことこそ、僕は職業蔑視だと思うんだ。

つかお前が100年くらいレジ打ちの修行をした後で、あのレジのおばさんとレジ打ち勝負したとしても、100回中10000回負けるし、お前のレジ打ちなんかは、あのおばさんのレジ打ちの前ではへたくそなドジョウ掬いみたいなものです。

才能あるレジのおばさんにはそれ相応の給料を払ったほうが良い - コトリコ

なぜ勝てないと思うんだ? 10年もみっちり修行したら到達できる領域だとは思わないのか? なんで戦う前から負けを決めつけるんだ?*1

別に絵が描けなくたって、文章が書けなくたって、それが誰にも認められなくたって、死ぬ訳じゃあないけど、それを自分の心のよすがにしてきた人間には、自分にはその分野で活躍していくような技能も才覚(つまりは才能)がない、と気がつくことはとてつもないショックを伴う。

才能がない、ということに気がつくということ。

技能なら身につければいいじゃないか。才覚って具体的にはなんだよ。

才能という言葉に対して、目から鱗が落ちるような思いを最近した。

宮崎 お金集めは鈴木(敏夫)プロデューサーがやってくれるので何の心配もいりません。つまり、自分の才能の不足に苦しむのだと思います。

1日4時間しか寝なくてもスッキリしている頭とか、机の上の細かい絵がよく見える目とか、何時間指を動かしていても鉛筆を握っていても疲れない腕とかそういうものがないのです。

Business Media 誠:“ポニョ”を作りながら考えていたこと:「世界は美しいものなんだな」と感じてくれる映画を作りたい——宮崎駿監督、映画哲学を語る(後編) (2/4)

この宮崎駿の言葉はもの凄く俺の中に響いた。そうだよ、それだよ!という感じ。こんな具体的な「才能」という言葉の中身は初めて見た。

俺にも1日4時間しか寝なくてもフル回転する頭や、何時間椅子にすわってても痛くならない腰があれば、もっともっと生産性を高める事ができるだろうし、身につける技術のレベルも高くなるだろう。でも実際にはそんな「才能」は持ち合わせてない。ハタチ前後の時期なら「若さ」がその「才能」のように機能してくれたのかもしれないけれども。

あまりに距離が遠いと、大きさの感覚を失うというのはまあ理解できる。俺も昔コンピュータの素人さんに「あんたなら何ができても不思議じゃない」とか言われたことがあるが、いくらなんでもそんな万能選手じゃない。彼らには俺の書くスクリプトが魔法のように見えたのかもしれないが、実際には根性と気合いでとにかく急いで書き上げた泥くさいスクリプトだ。それなりに頑張ったのに「不思議じゃない」、つまり「できてあたりまえ」みたいに思われるのは非常に悔しい。

「あんなの俺には無理だ」なんて思うことはいくらでもある。でもやってみれば、思ったより簡単にできたりする事もホントによくある。気が遠くなるほど遠くて大きいものように思えても、近づいてみれば意外に近くて小さいものだったりするのだ。

魔法に見えるのはそこに近付いてない証拠でしかない。

才能なんて言葉はごまかしじゃないのか。天才少年もそれがおもしろくてハマってるうちに他人の数倍の練習量をこなしてただけじゃないのか。単なる体力不足や根性不足で体や脳味噌を動かす時間で負けてるだけじゃないのか。

俺は努力とか根性とかいう言葉が好きなわけじゃない。どっちかというと嫌いな方なんだが、それが必要になる局面があることは否定しない。最後の最後は根性入れて努力するしかない、ということはけっこうある。しないで済めばそのほうがいいんだけどさ、コスト的な意味でも。

反面、才能というものがあるのも否定しない。努力しなくても最初から身につけてるものは確かにある。でもそれを努力で身に付けられないという証左は無い。それに才能は枯れる事もあるが、努力して身につけたものは枯れることは無い。そもそも才能に頼ってる時点でプロとしては問題があるだろう。才能でやってることなんてのは、なんでそれができるのか説明できないしな。

そりゃ簡単に身につくわけじゃない。才能ある人だって結果を出すにはそれ相応の努力もしてる。才能が無いならその分も努力しなきゃいけないんだから、大変なのは当然だ。

ひところ、頑張らない生き方、なんてのが流行ったことがある。それはそれでいいと思う。でも頑張らないことを選択したなら、それ相応の結果は覚悟してしかるべきだ。

間違った頑張り方をしてる人もいたりするけどね。病気なのに休まず動こうとするとか、お前はがんばってどうやって休むか考えろとか言いたくなる。

とにかく正しいトレーニングを積めば、トレーニング手法を模索しながら進んで来た先人たちより早く同じ場所に到達できるはず。才能に頼りきりの奴なんて、すぐに追い抜ける。

俺は自分の才能は信じても、他人の才能は絶対に信じない。そんなとこに壁を作った時点で負けが確定しちまってる。

勝てない理由並べてるヒマや人を中二病呼ばわりしてるヒマがあるなら、どうやって追いつくか必死に考えて実践してたほうがずっと楽しいしな。

追記

10000時間積み上げるだけの簡単なこと・・・本当に? | 独り言v6
トラックバックが届かなかったのだけども、この記事がとてもよかった。

最後に一言でまとめると、自分に言い訳する必要無しに10000時間続けられるものを探しなさい、ということだ。

10000時間積み上げるだけの簡単なこと・・・本当に? | 独り言v6

この言葉は至言と言ってもいいと思う。

*1:いや元記事の主旨には同意するんだけどね。凄腕のレジ打ちはもっと儲かっていいはずだ

Sugano `Koshian' Yoshihisa(E) <koshian@foxking.org>